理系一筋ではないけれど、今は研究に夢中
佐田泰 (心臓再生研究チーム 研修生)
✕ 兵庫県立宝塚高等学校 3年生
私たちが今回このインタビューを行うきっかけとなったのは、生物の授業内で「理研の研究者にインタビューをする機会があるんだけど、誰か応募しない?」という先生からの声掛けでした。理研という日本を代表する研究所の名前が挙がったことで少し緊張しましたが、学校では学べない最新の発見と、そこで真摯に研究と向き合う方と話してみたいと思い、参加しました。
私たちはヒトの体に起こる不思議なことに興味があり、将来の進路として理系・医療系を考えていたので、医師でありながら研究も行っている異色の研究者である佐田さんにインタビューすることにしました。
理研に入るまでの経歴を教えてください。
高校時代は部活以外にはこれといって何をしていたわけでもなく、テキトウに過ごしていました。大学進学を考えた時に、その時選べる一番難しいところという理由で法学部を選びました。しかし卒業後は弁護士としてはたらくわけではなく、段ボールをつぶすバイトなどをして数年間を過ごしました。
そんな中で今までとは全く違う方向へと進みたいと思いたち、医学の道を志しました。医学部に進学すると今度は研究の面白さに惹かれ、医師免許取得後に大阪大学の大学院に進学して、所属する研究室を選ぶ時に理研の研究室で研究することにしました。
理研の研究室を選んだ理由を教えてください。
理研には連携大学院という制度があって、協定がある大学の大学院生を理研の研究者が指導してくれます。研究室を選ぶ時にはもちろん大阪大学の教授の研究室も選べるのですが、理研は外国人研究員の割合が高く、セミナーも英語でやっていたりして、自分の研究をするのと同時に留学気分を味わったり異文化交流も行えるかなと思ったので、行ってみたいなと思いました。
なぜ「心臓再生」をテーマとする研究室を選んだのですか。
研究室の名称が「心臓再生」というわかりやすいネーミングだったのが決め手でした。他の研究室より何をしているのかわかりやすい!と思って飛び込みました。
最初の志望動機はそのようなものでしたが、研究を進めるなかで他の研究者の方々の熱意を強く感じ、今では「心筋梗塞後の後遺症をなくすこと」や「心臓の再生メカニズムを明らかにする」などといったことに興味があります。心筋梗塞自体を未然に防ぐというよりは、むしろ心筋を再生させることで心筋梗塞後の後遺症を改善させることが目標です。心筋が再生しないからこそ、心筋梗塞で心臓が傷ついてしまうと後遺症に苦しむのです。そのあたりをなんとかできないかなぁという好奇心が今の原動力です。
心臓は再生するんですか。
哺乳類でも胎児期や生まれた直後には心臓の再生能力があります。しかし、両生類や魚類などは大人になっても再生能力は維持されるのですが、哺乳類の心臓は生まれてしばらくすると再生能力を失ってしまいます。その謎に迫りたくて研究をしているんですが、胎児期や生まれてすぐの数日間のみ心筋細胞の中で粒状に観察できるタンパク質があります。このタンパク質は、生後、心筋細胞が大きくなっていくと消失してしまいます。このタンパク質が消失する時期が心臓の再生能力が消失する時期と一致しているので、心臓が再生するために重要なタンパク質なのではないかと考えています。
なぜ生まれてしばらくすると心臓の再生能力を失うのですか。
心臓の再生能力を失うのは主にマウスなどの哺乳類です。陸上で生活する生物が活動に必要なエネルギーであるATPを生成するには、酸素を必要とするミトコンドリア代謝を使います。その際細胞周期の停止などを引き起こす活性酸素が発生してしまうので、心臓の再生能力を消失させることに関わっていると考えられています。一方両生類や魚類などはATPを作り出すために、主に解糖系を使っていて、この経路は活性酸素が生まれにくいので、心臓の再生能力を失わないのではないかと考えられています。
大人の心臓にしかない機能はありますか。
心臓の再生能力は失いますが、心臓を構成する細胞の細胞質が大きくなることで、力強い拍動ができるようになり、大きくなった体全体に血液を送り届けることができます。それと引き換えに心臓の拍動を生み出すためにはATPがより多く必要となり再生能の喪失へとつながります。さらには力強い拍動そのものが心臓へダメージを与えます。こうした力強い拍動によるメリットとデメリットの両方が大人の心臓では起こっています。
再生に必要なタンパク質は母体から提供されているのですか。
その可能性もあります。そうした母胎内での影響というのは興味深い視点だと思います。ですが、一般的には胎盤を大きな物質であるタンパク質が通過することは難しいとされています。自分が注目しているタンパク質は他の細胞の中にも存在していますが、生後に消失するのは今のところは心臓だけのようです。このタンパク質は顆粒状で心筋細胞内に存在しているため、この形状を含めて再生と関連があるのかもしれません。このタンパク質の挙動を細胞内で再現できる方法を現在模索しています。
インタビューを終えて
理研といえば学生時代から理系一筋の方々ばかりだと思っていましたが、お話を聞く中で研究者にもさまざまな方がいて、文系出身でありながら進路変更をした結果、研究の道に進まれた方がいることに驚き、さまざまな考えを持った方々で研究を行っているということを感じました。
立派な施設名に緊張していましたが、研究されている方々は日々試行錯誤しながら、苦戦しながらも進んでいるということに親近感が湧き、一つのことに邁進している姿勢にかっこよさを感じました。
取材・執筆
江口 詩桜里、太田原 麻優、千葉 真依、天満 愛佳