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前任地である東大を離れ、2021年4月に新たに栄養応答研究チームのチームリーダーとして着任した小幡史明先生。ショウジョウバエを用いる研究人生は、細胞死分野で有名な東京大学薬学部の三浦正幸先生の研究室での博士課程から始まりました。ある細胞死変異体を解析する中で偶然にも代謝に関する表現型を見出したことがきっかけで代謝の研究にシフトし、のちに代謝の原料となる餌(栄養)が寿命に与える影響を探り始めました。学位取得後は、ショウジョウバエの代謝研究で知られているイギリスのAlex Gould博士の研究室へ留学し、餌を変えることで腸内細菌が変化し、それが寿命の延長に繋がることを発見しました。こうして偶然な発見から今取り組んでいる研究テーマにたどりつきました。今回は、その小幡チームリーダーに栄養応答研究チームについてお話を聞いてみました。

研究室メンバーはどのような構成ですか?

現在(2022年2月)は、東京大学にいた頃から私のグループで研究していた学生3人と事務パートさん、チームリーダーの私を含めて5人です。4月からは、現博士課程学生が理研基礎科学特別研究員として残り、また新しい研究員とテクニカルスタッフが一名ずつ、修士課程の学生が一名加わり計8名となる予定です。

研究室の主な研究テーマを教えてください。

私たちはショウジョウバエを用いて、食べものが健康寿命にどのように影響するかを理解することが大きなテーマです。ショウジョウバエを使う利点は、まず単純に寿命が2、3ヶ月と短いので健康寿命を評価するのが早く、安く、かつ省スペースでできるところです。もちろん、遺伝子操作が簡単にできるところも利点です。食べるものに応じて変化する腸内細菌(腸内細菌群)の影響も加味する必要があります。さらに個々の栄養素や細菌がどうやって影響しているのかを知るためには、宿主(ショウジョウバエ)の遺伝子を実際に操作する必要があり、ショウジョウバエはこれら3つ操作する系が確立している有効なモデル動物です。

研究室の強みはどんなところですか?

忘れがちですが、動物を用いたほとんどの研究では、餌や腸内細菌をあまり気にせず(ブラックボックスのままに)進んでいて、何らかの形でこれらの要素に影響されているデータを集めている可能性があります。私の研究室では、ショウジョウバエ遺伝子の操作に加えて、精緻な栄養操作、腸内細菌操作を全部一つの研究室の中でできるようにしているところが強みです。実験する上では、これらの状態を常に把握しておく必要があり、その3点を加味した上で健康寿命がどうなっていくかということを結論付けていくことができるのを売りにしています。

今後、研究で目指したいしていきたいことはありますか?

私たちヒトはほとんど毎日3回の食事を通して大量に栄養素を摂取しています。昨今の健康食品ブームもあって、いくつかの栄養素には気をつかっている人も多いかもしれません。ただ、栄養素の種類は一説には26,000以上あるとされており、それら個々の栄養素がどれくらいの量で含まれているかをほとんど意識することなく食事を取っています。我々の健康寿命は、その中に含まれる、特定の栄養素(例えばアミノ酸)が多いもしくは少ないことにかなり強く影響されている可能性があるのですが、私たちはどれがどうやって影響しているのかというのをしっかり分子の言葉で説明できるようにしたいと思っています。また、社会実装という点も意識しています。栄養素が腸内細菌や代謝、健康寿命などに与える影響の基礎的なところが知りたいというのがベースにありますが、テーマとしては応用が効きやすいと思っています。我々のラボで明らかになったことを社会に還元できれば嬉しいですね。今はサプリメントをたくさん飲んでいる人が多いですが、それが本当に健康にいいのか、どのタイミングでどういうふうに摂取すると「効く」のかということはかなり不透明。しっかりとしたサイエンスに基づいた介入を提案できないかと考えています。

新型コロナウイルス感染拡大による研究の影響はありましたか?

研究室外の他の人たちと自由に会えないのはかなり影響があると実感しています。新しい環境で仕事をする時に、どういう人がどういうことをやっているかということが分かっているか分かっていないかで、ずいぶん仕事のやりやすさが変わるということに気づきました。やっぱり何か理由がないとオンラインで「バッタリ」会うことは難しいし、ふらっとラボに訪問するのも来てもらうのもまだしづらいですね。唯一、隣の王丹ラボとは色々な交流を通して仲良くしてもらえていて、とても助かっています。着任してから1年近くなりますが、それ以外では直接会えたのはチームリーダーでさえまだ7、8人程度です。所内ですれ違ってもマスク姿では互いに自信がなく、声をかけるべきか憚られます。私を含めうちのラボメンはとっても人懐こい性格なので、もっと仲良くしてもらえると嬉しいです。