ロボットが代わりに実験、カマキリを操るハリガネムシ、肺胞オルガノイド、ウイルスRNAの動的構造、寒さに強いマウスは細胞も寒さに強い、生体リズムと毛質の改善など。
2023年8月から2023年11月までのプレスリリースと論文ニュースからご紹介します。
ヒューマノイドロボットは再生医療の現場へ
2023年11月30日
熱が引いても疲れが取れない理由
2023年11月24日
ウイルスなどの病原体が感染すると、急性期の発熱や痛みなどの全身症状だけではなく、長期にわたる倦怠感や意欲低下などを招くことが知られています。
崔翼龍 チームリーダー(研究当時、生体機能動態イメージング研究チーム)、
土居久志 チームリーダー(研究当時、標識化学研究チーム)、
渡辺恭良 チームリーダー(研究当時、健康・病態科学研究チーム)らは、ウイルス感染後の倦怠感に脳内の局所炎症が関わることを発見しました。
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Li D, Hu D, Ochi Y, et al. Front Immunol 14, 1261256 (2023)
睡眠制御における転写後プロセスの役割を解明
2023年10月25日
アーサー・ミリウス研究員、山田陸裕 客員研究員、
上田泰己チームリーダー(合成生物学研究チーム)らは、体内時計遺伝子のmRNA中に、タンパク質合成を制御し睡眠覚醒サイクルに影響を与えるリボソーム結合配列を発見しました。 本研究成果は、睡眠異常とそれに関連する遺伝子変異の同定と検証を進める上で重要で基礎的な知識です。
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Millius A, Yamada RG, Fujishima H, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 120, e2214636120 (2023)
カマキリを操るハリガネムシ遺伝子の驚くべき由来
2023年10月20日
自然界では、寄生生物が自らの利益のために宿主操作を行う例が数多く確認されています。三品達平 基礎科学特別研究員(研究当時、
染色体分配研究チーム)、京都大学生態学研究センターの佐藤拓哉 准教授らは、寄生虫ハリガネムシと、寄生により入水行動をさせられる宿主カマキリの全遺伝子発現解析を行いハリガネムシのゲノムにカマキリ由来と考えられる大量の遺伝子を発見し、この大規模な遺伝子水平伝播がハリガネムシによるカマキリの行動改変(宿主操作)の成立に関与している可能性を示しました。
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Mishina T, Chiu MC, Hashiguchi Y, et al. Curr Biol 33, 4988-4994 (2023)
エピゲノム修飾の位置を端から数える仕組み
2023年10月17日
梅原崇史チームリーダーと菊地正樹 研究員(研究当時、エピジェネティクス制御研究チーム)らは、多くのタイプのがん細胞で高発現しているタンパク質GAS41が、ヒストンH3タンパク質のアセチル化修飾を認識し、特定の遺伝子の発現を活性化する仕組みを発見しました。 本研究成果により、GAS41が高発現している多種類のがん細胞の増殖を抑える制御分子の合理的な開発が期待されます。
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Kikuchi M, Takase S, Konuma T, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 120, e2304103120 (2023)
遺伝子発現を活性化するスーパーエンハンサーの再定義
2023年10月3日
がんなどの疾患細胞では特定の遺伝子の発現が暴走した状態が見られますが、これは細胞増殖などに関わる遺伝子の制御領域がスーパーエンハンサーを形成することが一因と考えられています。
梅原崇史チームリーダーとナンド・ダス研究員(研究当時、エピジェネティクス制御研究チーム)らは、がん遺伝子などの発現を強く活性化するスーパーエンハンサーを、ヒストンH4の高アセチル化状態を指標として再定義することにより、がん細胞の幹細胞性の制御に関わるスーパーエンハンサーを見いだしました。
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Das ND, Chang JC, Hon CC, et al. BMC Genomics 24, 574 (2023)
肺線維症発症の中心的機構を発見
2023年8月31日
特発性肺線維症は、肺胞の壁が厚く固くなり(線維化)、進行すると呼吸機能が低下し生命に関わる疾患です。榎本泰典 研究員、
森本充チームリーダー(呼吸器形成研究チーム)らは、肺胞オルガノイド培養と呼ばれる新しい細胞培養技術を使って培養皿上にミニ肺胞を再現し、肺線維症が発症する最も初期の現象を解明することに成功しました。
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Enomoto Y, Katsura H, Fujimura T, et al. Nat Commun 14, 4956 (2023)
脳心筋炎ウイルスはRNAの動的構造平衡を利用して増える
2023年8月28日
脳心筋炎ウイルスはセンス一本鎖RNAをゲノムとして持ち、宿主細胞のタンパク質合成系を利用して、増殖に必要なウイルスタンパク質を合成します。しかし、ウイルスRNAがどのように宿主細胞の翻訳系を乗っ取り、タンパク質を合成させるのかは明らかではありませんでした。
嶋田一夫チームリーダー、今井駿輔 上級研究員(生体分子動的構造研究チーム)らは、脳心筋炎ウイルスのゲノムRNAが宿主細胞のタンパク質合成系を乗っ取る過程において、RNAの動的構造平衡が重要な役割を果たすことを明らかにしました。
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Imai S, Suzuki H, Fujiyoshi Y, Shimada I. Nat Commun 14, 4977 (2023)
生きたES細胞で転写因子の機能を分子精度で定量
2023年8月23日
NanogとOct4は、ES細胞が分化多能性を維持するために必須の転写因子ですが、これまでNanogやOct4の細胞内での分子動態とクロマチン構造の変化、分化多能性との関連性は明らかにされていませんでした。
渡邉朋信チームリーダー(先端バイオイメージング研究チーム)、
岡田康志チームリーダー(細胞極性統御研究チーム)、広島大学両生類研究センターの岡本和子 助教らは、マウスES細胞で働くNanogとOct4の挙動を1分子精度で定量解析し、ES細胞の分化多能性を維持するための新しいメカニズムを発見しました。
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Okamoto K, Fujita H, Okada Y, et al. EMBO J 42, e112305 (2023)
寒さに強いマウスは、細胞も寒さに強い
2023年8月18日
マウスは冬眠しませんが、飢餓状態に置かれると日内休眠と呼ばれる一過性の低代謝状態に陥り飢餓を乗り越えようとします。その際に低代謝により体温が低下します。吹田晃享 研修生、
砂川玄志郎チームリーダー(冬眠生物学研究チーム)らは、休眠時の低体温がマウスの系統によって異なることを発見し、STM2というマウスで休眠中の体温が特に低く保たれていること(最低体温22℃)を見いだし、その細胞は培養下でも寒さに強いことを発見しました。本研究成果は、冬眠動物に特有の低温耐性の解明を進め、ヒトを含めた非冬眠動物を冬眠させる人工冬眠の実現や、その応用による救急医療、臓器保存の技術開発に貢献すると期待できます。
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Suita K, Ishikawa K, Kaneko M, et al. Cell Rep 42, 112954 (2023)
X染色体不活化の安定性は染色体の形が鍵だった
2023年8月11日
雌の細胞が持つ2本のX染色体のうち1本は胚発生の初期に不活性化され、不活性X染色体となって遺伝子発現が抑制されます。ラウィン・プーンパーム研究員、
平谷伊智朗チームリーダー(発生エピジェネティクス研究チーム)らは、哺乳類の雌の不活性X染色体の特徴的なDNA複製制御の解析から、その3次元構造に関する新しい特徴を見いだしました。本研究成果は、高度に凝縮したヘテロクロマチンと呼ばれる染色体構造が遺伝子発現を安定的に抑制する仕組みの理解につながると期待できます。
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Poonperm R, Ichihara S, Miura H, et al. Nat Struct Mol Biol 30, 1224-1237 (2023)
新たな生体リズムを毛の形態形成モデルから解明
2023年8月4日
辻孝チームリーダー、武尾真 上級研究員、小川美帆 客員研究員(器官誘導研究チーム)らは、特殊な毛の形態形成モデルから新たな生体リズムの機構を解析し、毛を生み出す器官である毛包の毛乳頭細胞が作るマイクロニッチと毛母細胞の時間的空間的な変化により、毛包特異的なリズムが生み出されることを解明しました。本研究成果は、生体リズムが関与する発生現象の理解に貢献するとともに、毛質に個人差が生じる仕組みや、生体リズムの乱れを伴う加齢メカニズムの解明、加齢による毛質変化に対する予防法の確立につながると期待できます。
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Takeo M, Toyoshima K, Fujimoto R, et al. Nat Commun 14, 4478 (2023)