田上 俊輔(たがみ・しゅんすけ)

理研BDR 高機能生体分子開発チーム チームリーダー

宇宙船のトラブルで遭難し、仲間と力を合わせて生き残る。そんなSFストーリーに胸を踊らせたことはありませんか? 宇宙冒険サバイバルは日本の漫画やアニメでも欠かせないテーマで、手塚治虫の『火の鳥』や萩尾望都の『11人いる!』、『宇宙船サジタリウス』や『彼方のアストラ』、『AGRAVITY BOYS』など、数え出したらきりがありません。『ドラゴンボール』は逆に異星人が地球に来るパターンですね。では、もし未知の惑星に不時着したら、生き残るために一体何が必要になるでしょうか? 当然、食料の確保は最重要課題のはずですが、通常漫画などでは割とあっさり食べ物が見つかります。まあ、見つからなかったらすぐに全滅してしまうので、食べ物が手に入ることにしないと話が進まないのでしょう。しかし、別の星の生き物が食べられるなんてことが実際あり得るのでしょうか?

私たちの毎日の食事に含まれる栄養素のなかでも欠かせないもののひとつがタンパク質です。しかも、タンパク質はただのエネルギー源ではありません。私たちの体の中では数万種類ものタンパク質が小さな機械のように様々な仕事をしています。そのようなタンパク質のはたらきのおかげで、私たちは運動したり、考えたり、漫画を読んだりすることができるのです。ですから、

  1. 宇宙生命体もタンパク質のような機能分子を持つはず。
  2. 宇宙生命体を食べるには、その機能分子がずばりタンパク質でなくてはならない。

ということが言えるはずです。このことは、「宇宙のそこかしこでタンパク質が簡単に作れるなら、食べられる宇宙生命体がたくさんいるだろう」と言い換えることもできます。

では、機能を持つタンパク質は簡単に作れるのでしょうか? そもそも、タンパク質というのはアミノ酸が鎖のようにつながった分子です。一般的には小さいタンパク質でも100個ほど、大きいものでは数千個ものアミノ酸がつながって1つのタンパク質になります。タンパク質を作るのに使われるアミノ酸は20種類あり、タンパク質のどの位置にどのアミノ酸が使われるのかによって、それぞれのタンパク質は独自の『アミノ酸配列』を持ちます。そしてその独自の配列のおかげで様々な機能を実行することができるのです(ちなみにこのアミノ酸配列を決めているのがDNAの遺伝情報です)。

問題は20種類のアミノ酸をデタラメに並べるだけでは、ちゃんと機能を持ったアミノ酸配列になることはほとんどないということです。例えば、20種類のアミノ酸を100個つなげると20100=約10130種類という途方も無い数のアミノ酸配列が考えられることになります。数の最大の単位である無量大数が1088ですから、タンパク質のアミノ酸配列の種類はまさに数え切れないほど多いのです。しかし、そのような莫大な配列の中から機能のあるものを選び出すことが果たして可能でしょうか? この宇宙に存在する全ての原子をあわせても1080個しかないことを考えると、機能するタンパク質がこの宇宙で生まれる確率は絶望的に低いように思えます。しかし、地球上には実際にタンパク質で出来た生命が溢れていますから、タンパク質を作るのはもっと簡単だったはずです。

ではもし、もっと少ない種類のアミノ酸で作った短いタンパク質がきちんと機能を発揮できたらどうでしょう? 例えば5種類のアミノ酸を30個つなげるだけなら1021通りの配列しか必要ありません。これなら全ての配列を用意してもわずか5グラムで済みます。もしそんな少量のタンパク質から生命現象をサポートする機能分子が見つかるのであれば、この宇宙にはタンパク質をもった生き物がたくさん存在していそうな気がします。

このような考えに基づき、私達の研究グループも、少ない種類のアミノ酸、とても短い配列で機能を持つタンパク質を作れないか研究を進めています。まだまだ研究の途中ではありますが、地球で生命が誕生したころの太古のタンパク質は今よりも遥かに単純で、実は簡単に作れたのではないかという実験結果が続々と出てきています。ですから、宇宙の他の星にもタンパク質でできた生き物がたくさんいるのかも知れません。キングギドラのステーキはどんな味がするのでしょうか。

 

 

(イラスト:高橋涼香)