森 雅志(染色体分配研究チーム 研究員)

✕ 武庫川女子大学附属高等学校2年生有志

2019年3月に海外研修に行ったとき、現地の日本人研究者に話を聞く機会があり、海外で研究をすることに興味を持ちました。今回私たちが訪ねた理化学研究所神戸キャンパスでは生物学分野や計算科学分野の研究を行っています。卵細胞の研究者で海外での研究経験もある森雅志さんに、現在の研究内容と海外での体験談をお話ししていただきました。

 森研究員
森 雅志(もり・まさし)神奈川県出身。東京工業大学、EMBL、大阪大学などを経て、2017年から理研。ヒトデの卵からマウスの卵まで、卵母細胞における染色体動態の解析が専門。

なぜ海外に行くことを決めたのですか。

「海外に行って勉強したい」というのが小さい頃からの夢でした。日本でも僕がしたかった研究をできる所はあったんですが、憧れがあって、海外に行くことを決めました。海外の研究所を探していると、僕が大学の時に研究材料として使っていたヒトデの卵を使った研究をしている、世界的に権威のあるラボが一つだけドイツにありました。ちょうどその時、僕のいた研究室に海外から共同研究者が来ていて、たまたま彼はそのラボの人と仲が良かったんです。彼に僕が日本語を教えていたこともあって強いつながりができて、仲介してくれたので留学がすんなり認められた感じです。本当にすごいラッキーでした。

英語が話せないことへの不安はありませんでしたか。

不安はすごくありました。面接をしにドイツまで行って、ラボのメンバー一人一人と丸一日話したり、どんな研究をするかチームリーダーとディスカッションしたり、日本で行っている研究内容を説明したりした時に、英語がわからなくて。みんなが言ったこともわからない上に、伝えようにも拙い英語しか喋れませんでした。でも、僕には日本で9年研究していた実績がありました。だから、実際行ってみると、英語が分からなくても研究ではしっかりと貢献できたし、自分だからこそできることもあったので、英語に不安があってもやっていけるという手応えはありました。英語は、半年すると大体聞けるようになってきて、1年くらいすると言いたいことも言えるようになりました。

ドイツと日本の研究所の違いはありましたか。

例えば、ドイツの研究所では学生も給料をもらえます。僕が行った所は学生の給料がヨーロッパで一番高い研究所だったので、ヨーロッパ中の優秀な学生が集まっていて、モチベーションも高かったです。「将来はチームリーダーになるぞ!」と意気込んでいる人も多くて、やる気と活気に満ちあふれていたと思います。日本では少しずつ地位を上げていくことが多いので、その感覚の違いはすごくありますね。実際、複数の同僚たちは30代でいきなりチームリーダーになっていて、頑張ればなれる、という雰囲気がありましたね。

日常生活で違いはありましたか。

ドイツの主要な宗教はキリスト教だから、日曜日はお店が休みになってしまうんです。開いているのは観光業、ダウンタウンのレストランだけで、それ以外はスーパーも閉まってしまいます。ドイツで生活を始めた時、たまたま到着したのが3連休の金曜日で、土曜日にスーパーに行きそびれたので、日曜日と月曜日はガソリンスタンドについているコンビニのお菓子でしのぎました(笑)。これはドイツに留学した人はみんな驚くポイントですね。また、家では和食を食べることが多かったんですが、食材がとても高いです。納豆は1パックで150円、モヤシは1袋400円でした。それでも恋しくて買ってしまうんですよね。

日本に戻ってきた時に大変だったことはありますか。

やっぱり感覚のずれはありました。そういうのは説明が難しい微妙な違いだと思いますが…。例えば、日本に帰りたての頃は主張しすぎて引かれることがありました。多分ドイツではそれが普通だったので、自分の意見をストレートに言い過ぎていたのかもしれません。日本に帰ってきてから少し抑えるようにしました(笑)また、国単位というか、日本国内でもあるかもしれないですけど、暗黙の了解みたいなものが違いますね。僕はヨーロッパ的なものは経験しましたが、多分アメリカとかでも違うと思うし、そのへんはフレキシブルにならないといけないかもしれません。

研究者に就活はあるんですか。

ありますよ、たくさんしました。ドイツに行ったときはもちろん、ドイツから帰ってくるときもチームリーダーや助教のポジションなど、いろんな業種に応募しました。卵の研究を続けたかったので、卵を扱っている研究室にだいぶ声をかけました。最初はシンガポールの大学や研究所に応募して、次に日本で職探しをしました。いくつも応募して最初にとってもらったのが日本だったという感じです。

研究をするにあたって、助成金を受け取っているそうですが、お返しはするんですか。

研究成果という形でお返しします。研究成果を発表するときにこういう所から助成金をいただきましたと表記することと、こういう発表をしましたと助成金をくれたところに報告します。研究のための財団はたくさんあって、僕はドイツに行くときも助成金を貰って行きました。

卵の研究にこだわっている理由はなぜですか。

僕は生物学の研究者ですが、生物学の全ての分野に関して最先端の知識があるわけではありません。なので、やはり自分が科学に一番貢献できるのは卵細胞の研究だと思っています。もちろん研究内容を変えてもいいです。しっかりと勉強すれば、別の分野でまた第一線で研究することは可能です。ですが、研究内容が大幅に変わってしまうと、また一からの積み上げになってしまうので、最先端な研究で成果を上げることは難しいと思います。今のところはまだまだ卵細胞に関する疑問が多く残っているので、それを解くのが楽しいです。

1日に何時間ほど研究をされているのですか?

ほとんど9時過ぎに来て、5時過ぎには帰る生活をしているので、大体8時間ぐらいです。娘の保育園にあわせての出勤、退勤ですね。周りにはもっと長い時間研究を行っている研究者がいます。ヨーロッパ方面に留学経験のある人は、家族との時間を大切にする傾向にあるので、比較的勤務時間が短いように思います。

インタビューを終えて

武庫川女子大付属高校有志@理研

研究者の方は堅苦しいイメージが個人的にありましたが、今回森さんにインタビューさせてもらい、とても話しやすく、研究者の方のイメージが大きく変わりました。インタビューの中で、研究と家庭との両立が可能だということを知り、研究者は一日中研究室で過ごすことが当たり前だと思っていたので、とても驚きました。

また、海外で研究をされていた頃のお話を聞いて、将来、海外で研究することにますます興味がわきました。特に、日本と海外の研究者の意識の違いや、研究室の雰囲気、日常生活の違いがとても興味深かったです。

取材・執筆

武庫川女子大学附属高等学校2年生
亀尾七海、北紗由紀、酒楽裕姫、濱本明日花、村上真優