進化と発生、生命と分子の誕生の謎、生態系のダイナミクス、ウィルスやタンパク質の構造変化、暗黒の細胞死の発見、オジギソウ駆動型バルブ、オポッサムの心筋再生能、ロボットとAI、父親の子育てを支える神経回路など。2022年3月から6月までのプレスリリースと論文ニュースからご紹介します。

病原菌はヘムを解毒して血中で増殖する

2022年6月28日

ヒトの体内に侵入した病原菌は、ヘモグロビンから鉄を含んだヘムを奪い取って血中で増殖しますが、ヘモグロビンを分解する際に高濃度の遊離ヘムにさらされます。一部の細菌は有毒な遊離ヘムを過剰に取り込まないように細胞内からヘムを排出する仕組みを進化させたと考えられています。タンパク質機能・構造研究チームの中村寛夫特別嘱託研究員、久野玉雄専任研究員、白水美香子チームリーダーらは、膜タンパク質としてのABCトランスポーターの生化学的な解析と、大型放射光施設「SPring-8」を用いた詳細なX線結晶構造解析を行いました。その結果、ABCトランスポーターは、病原菌の細胞膜に侵入した遊離ヘムを捕捉し、続いて起こる構造変化により、ヘムを押し出す汲み出しポンプであることが分かりました。 続きを読む

Nakamura H, Hisano T, Rahman MM, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 119, e2123385119 (2022)


再生医療用細胞レシピをロボットとAIが自律的に試行錯誤

2022年6月28日

研究は数多くの実験によって成り立ち、個々の実験のために、反応時間・試薬濃度・操作順序などの組み合わせを変えながら膨大な数の試行錯誤が行われます。この試行錯誤を自動化する取り組みとして、科学実験を人間の介在なしに自律的に実行する方法がさまざまな分野で開発されつつあります。神田元紀上級研究員、髙橋政代プロジェクトリーダー(網膜再生医療研究開発プロジェクト、研究当時)、髙橋恒一チームリーダー(バイオコンピューティング研究チーム)らは、高精度な生命科学実験動作が可能な汎用ヒト型ロボットLabDroid「まほろ」と新たに開発した人工知能ソフトウェアを組み合わせたシステムを設計し、このシステムが人工多能性幹細胞から網膜色素上皮細胞への分化誘導工程において、分化誘導効率を高める培養条件を人間の介在なしに自律的に発見できることを実証しました。 続きを読む

Kanda GN, Tsuzuki T, Terada M, et al. eLife 11, e77007 (2022)


新たな合成法の開発と応用のイメージ図

理想的な11C-標識ロイシンの化学合成法を開発

2022年6月15日

アミノ酸は生体内で多種多様な生命現象を支える重要な物質です。中でも、ロイシンやイソロイシンやバリン(分岐鎖アミノ酸)は、生体内のタンパク質成分の約20%を占め、生命機能の発現や生体恒常性の維持などの重要な役割を担っています。生体内で活動するこれらの分子の挙動を追跡することは生命現象の理解と解明に大きく貢献します。髙谷修平研究員、土居久志チームリーダー(標識化学研究チーム)らは、独自の高速11C-メチル化法とフロー式水素化法を組み合わせた連続的化学合成法を開発し、これまで実現が困難だったL-ロイシンの炭素骨格5位末端を陽電子放出核種である炭素11で標識することに成功しました。これにより将来的に陽電子放射断層画像撮影法(PET)を用いた臨床研究にも適用可能な11C-標識メチルロイシンなどを迅速合成することが可能になりました。がんの画像診断や生命機能の解明にも期待ができます。続きを読む

Takatani S, Tahara T, Tsuji M, et al. ChemMedChem 16, 3271-3279 (2021)


タンパク質の構造機能解析をたった2日で終わらせる

2022年6月14日

生物の体の中のさまざまな働きを担うタンパク質は20種類のアミノ酸が鎖のようにつながった分子で、その鎖が特定の構造に折りたたまれて特定の機能を発揮しています。したがって、生命現象を解明するためには、タンパク質の構造と機能の関係を知ることが重要ですが、これは、とても時間と手間のかかる作業をともない、数ヶ月から数年がかりの研究になってしまいます。Almasul Alfi研究員、Aleksandr Popov国際プログラム・アソシエイト、田上俊輔チームリーダー(高機能生体分子開発チーム)、Ashutosh Kumar上級研究員、Kam Zhangチームリーダー(構造バイオインフォマティクス研究チーム)らは、高性能のタンパク質構造予測AI、AlphaFold2による構造予測と無細胞タンパク質合成系を利用したタンパク質の機能解析を組み合わせることで、タンパク質の構造機能解析を最短2日で完了させるプロトコルを開発しました。 続きを読む

Alfi A, Popov A, Kumar A, et al. ACS Synth Biol 11, 2022-2028 (2022)


ペプチドとRNAの出会いが生命を生んだ?

2022年6月3日

われわれ生命はどのように生まれたのでしょうか。生命が誕生するためには、遺伝情報を保存する分子(DNA、RNA)、酵素活性などを持つ機能分子(ペプチド、タンパク質など)、それらの散逸を防ぐ区画構造の三つが必要だったと考えられています。しかし、そのような多種類の分子を含む複雑なシステムがどのように誕生したのかはよく分かっていません。これらの分子について、特にRNAは遺伝情報を保存すると同時にそれ自体が機能分子(RNA酵素)にもなり得ることから、生命は自己を合成するRNAとして誕生したのではないかという「RNAワールド仮説」や、RNAやDNAといった核酸よりもペプチドの方が化学的に単純かつ安定で、生命誕生以前の地球環境ではペプチドのほうが合成されやすかったと考えられることから、ペプチドがRNAよりも先に存在したという仮説などがあります。いずれにしても、生命の初期進化過程のどこかで核酸とペプチドが出会い、現在の複雑な生命に進化してきたのだと考えられます。したがって、その「出会い」を再現する試みは非常に有意義です。李佩瑩(リ・ペエイ)研究員、田上俊輔チームリーダー(高機能生体分子開発チーム)らは、正電荷を持つペプチド凝集体がRNA(負電荷を持つ)を吸着し区画を形成、RNA酵素によるRNA合成反応を促進することを発見しました。本研究成果は、単純なペプチドによってRNAの濃縮・複製が促進されることを示しており、太古の地球でこれらの分子種を含む生命がどのように誕生したのかを解明するための重要な手掛かりとなると期待できます。
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Li P, Holliger P, Tagami S, Nat Commun 13, 3050 (2022)


進化・生態ダイナミクスの共通法則

2022年6月1日

自然界では、生物の個体数が時間の経過とともにしばしば複雑に変化します(個体群ダイナミクス)。このメカニズムを知ることは、進化や生態系を理解するうえで重要です。進化では、個体群の増殖率の増加は、遺伝的な多様性の大きさで決まるという法則が知られています。しかし、この法則は突然変異がある進化には適用できません。また、生態系では、捕食・被食や競合を通して個体間に相互作用が生じるため、個体群ダイナミクスは極めて複雑になり、全ての系で成り立つ関係式はこれまで知られていませんでした。生体非平衡物理学理研白眉研究チームの足立景亮基礎科学特別研究員、理研数理創造プログラムの入谷亮介研究員、濱崎立資上級研究員らは、近年の統計物理学の知見を利用し、個体群の増殖率や生態系の多様度の変化速度には、限界が存在することを示す不等式(速度限界不等式)を一般に成り立つ関係式として提案しました。本成果は、進化や生態系における複雑な個体群ダイナミクスを統一的な枠組みによって説明することにつながると期待できます。また、生物学と情報理論や物理学という異分野を結びつけ、包括的アプローチによる生物現象のさらなる解明を促進すると考えられます。

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Adachi K, Iritani R, Hamazaki R, et al, Commun Phys 5, 129 (2022)


 

パレオスポンディルスの頭骨の3次元モデル4億年前の謎の脊椎動物の正体解明

2022年5月26日

パレオスポンディルス(Palaeospondylus gunni)は、英国スコットランドにある中期デボン紀(約4億年前)の湖に堆積した地層から産出する化石種として知られています。これまでパレオスポンディルスは、円口類、サメやエイなどの軟骨魚類、初期の顎を持つ脊椎動物(板皮類)の幼生、ハイギョ(肉鰭類)の幼生、両生類の幼生など、さまざまな系統的位置に置かれてきました。倉谷滋 主任研究員(形態進化研究チーム・チームリーダー)らは、大型放射光施設SPring-8においてシンクロトロン放射光X線マイクロCT(SRXμCT)を用いて、パレオスポンディルスの化石の頭骨の形態を精密観察し、この動物が陸上脊椎動物の祖先と近縁であったことを発見しました。本研究成果は、魚類から陸上脊椎動物への移行段階に、従来知られていなかった奇妙な形態パターンを持つ動物が存在したことを示しており、ヒトを含む陸上脊椎動物の初期進化過程の全貌解明に貢献すると期待できます。
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Kuratani S, Hirasawa T, Uesugi K, et al, Nature 606, 109–112 (2022)


哺乳類最長の心臓再生可能期間を持つオポッサム

2022年5月26日

心疾患はヒトの死因の第一位を占めており、現代において最も重大な疾患の一つです。その主な原因の一つとして、成体の哺乳類には心筋梗塞などで失われた心筋細胞を再生させる能力がないため、障害を受けた心臓の治療法に限界があることが挙げられます。一方、胎仔期および出生直後の新生仔期の哺乳類には、多くの心筋細胞に細胞分裂能があり、心筋梗塞などの障害を受けると心筋細胞の細胞分裂が活性化され、失われた心筋組織を再生することができます。ところが、マウスやラットなどの小型動物からブタなどの大型動物まで、これまで調べられた全ての哺乳類において、生後数日以内にほとんどの心筋細胞は細胞分裂を停止し,同時に心筋再生能も失われることが報告されています。西山千尋テクニカルスタッフ、木村航チームリーダー(心臓再生研究チーム)らは、有袋類であるハイイロジネズミオポッサムの新生仔は、出生後2週間以上にわたって心臓を再生させる能力を持つことを発見しました。したがって、オポッサムには子宮外環境でも心筋細胞が細胞分裂を継続するための特有の仕組みが備わっていることが示唆されます。今後、その詳細なメカニズムを追究し、ヒトを含む哺乳類の成体においても心筋細胞の細胞分裂を活性化する方法を発見できれば、心臓の再生医療戦略の確立に貢献すると期待できます。

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Nishiyama C, Kimura W, Sakaguchi A ,et al, Circulation 121.055269 (2022)


オジギソウの力で駆動されるバルブの模式図

オジギソウ駆動型バルブ

2022年5月23日

エネルギーや環境・通信・医療など、現代の科学技術のあらゆる分野において、省スペース・省エネルギー、かつクリーンな機械システムの開発が大きな課題となっています。田中陽チームリーダー(集積バイオデバイス研究チーム)らはこれまで、細胞や生体組織の機能を搭載したデバイスを開発してきました。しかし、神経や血管も含め、複雑な動物組織や切片を生かしたまま使うのは容易ではありません。今回、同チームリーダーとアイサン・ユスフ大学院生リサーチ・アソシエイトらは、オジギソウが外界の刺激を感知して運動する機能を用いて、枝に軽く触れるだけで開閉可能な小型の弁(バルブ)を開発しました。オジギソウなどの植物による生物機械融合デバイスは、光・水・空気を供給すれば比較的容易にエネルギーを産生・機能維持ができ、倫理的問題も少ないと言えます。本研究成果は、小型で電源が不要な機械として、自律的な環境センシング・動作機能を利用した、暑熱乾燥時の放水デバイスなどへの応用が期待できます。

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Tanaka Y, Aishan Y, Funano S, et al, Scientific Reports 12, 7653 (2022)


窒素がなくてもアミノ酸はできる!

2022年4月27日

アミノ酸は、生命を構成する主要分子であるタンパク質の最小単位です。全ての生物は、材料として約20種類のアミノ酸を多数連ねることでタンパク質を作ります。地球上に生命が誕生したのは約40億年前と推定されていますが、その際にアミノ酸がどこから来たのかは、生命誕生に関する根源的な問いであるにもかかわらず、いまだに謎のままです。アミノ酸の起源については、これまでに、放電現象で生成したとする説、宇宙から飛来したとする説、隕石の落下による衝撃で生成したとする説など、さまざまな仮説が提案されていますが、確定的なシナリオはまだありません。福地知則研究員、渡辺恭良チームリーダー(健康・病態科学研究チーム)、丹羽節副チームリーダー、細谷孝充チームリーダー(分子標的化学研究チーム)らは「炭素、酸素、水素のみで構成されるカルボン酸(R-COOH)に放射性同位体である炭素14が含まれた場合、これがベータ崩壊により窒素14に置き換わることでアミノ酸が生成する」という仮説を立て、計算機シミュレーションにより検証し、高い確率でこりうることを確かめました。本研究成果は、地球と生命の歴史における、アミノ酸の起源について、新しいシナリオを与えるものです。
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Fukuchi T, Niwa T, Hosoya T, et al, J. Phys. Soc. Jpn. 6 (2022)


細胞の暗黒死

暗黒の細胞死の発見

2022年4月26日

腸や皮膚などの新陳代謝の盛んな組織では、老化した細胞などは常に死にゆき、新しい細胞に置き換わります。このプロセスはターンオーバーと呼ばれ、さまざまな動物種において、組織の機能・形態の恒常性維持に重要な役割を果たしています。腸のターンオーバーについては、「アポトーシス」と呼ばれるタイプの細胞死によって腸細胞が置き換わるというのが従来の定説でした。ユ・サガンチームリーダー(動的恒常性研究チーム)、開拓研究本部Yoo生理遺伝学研究室のハンナ・シエシエルスキー国際プログラム・アソシエイト、西田弘特別研究員らは、ショウジョウバエの腸では、「アポトーシス」とは異なるタイプの細胞死が腸細胞の入れ替わりを制御することを発見しました。この新しい細胞死は、その過程でさまざまなタンパク質が失われ、蛍光顕微鏡下では細胞が黒く見えることから、「エレボーシス(暗黒の細胞死)」と命名されました。今回の発見により多細胞生物の持つ基本的な仕組みの一つである細胞死という現象の枠組みが大きく変わる可能性があります。今後は、エレボーシスがヒトの腸などでも起こるのかの検証や、エレボーシスの詳細な分子機構の解明が期待されます。
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Yoo S, Hanna C, Nishida H, et al, PLOS Biol. 20, 4 (2022)


スパイクタンパク質の構造変化を予測

2022年4月25日

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の表面に存在するスパイクタンパク質の変異型の発生が、パンデミックの長期化につながっています。SARS-CoV-2のスパイクタンパク質は3本のポリペプチド鎖から構成されており、それぞれのポリペプチド鎖に含まれる「受容体結合ドメイン(RBD)」と呼ばれる部分が不活性な「ダウン型」から活性な「アップ型」に構造変化することで、SARS-CoV-2がヒト細胞に侵入できるようになることが明らかになっています。杉田有治チームリーダー(分子機能シミュレーション研究チーム)、開拓研究本部杉田理論分子科学研究室のドカイニッシュ・M・ヒシャム特別研究員らは、スーパーコンピュータ「富岳」を用いて、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)表面に存在する「スパイクタンパク質」のシミュレーションを行い、ウイルス感染に必要なスパイクタンパク質の構造変化を引き起こす分子機構を明らかにしました。本研究により、SARS-CoV-2本来の立体構造が非常に”柔らかい”ことが分かりました。今後は、オミクロン株など異なるアミノ酸配列を持つスパイクタンパク質の柔らかさも同じ手法で予測できます。この立体構造の柔らかさは、ダウン型からアップ型への構造変化のしやすさとも関係していると考えられるため、SARS-CoV-2の感染性変化の予測にもつながると期待できます。
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Sugita Y, Dokainish H, Mori T, et al, eLife 11, e75720 (2022)


父親の子育てを支える神経回路の変化

2022年4月20日

近年、父親の育児参加が世界的に重要な社会課題とされており、男性の育児を動物行動学や神経科学など基礎科学の対象として理解する試みが着目されています。しかし、妊娠や出産といった大きなライフイベントを伴う女性と比べ、男性が父親になる過程で、心身にどのような変化が起きるのかについては十分に理解されていません。稲田健吾基礎科学特別研究員、宮道和成チームリーダー(比較コネクトミクス研究チーム)らは、雄マウスが父親となり子育て(養育行動)を始める際に鍵となる脳神経回路の変化を明らかにしました。ライフステージの変化に伴う神経回路の変化を高い解像度で捉えた本研究成果は、父親が示す養育行動の神経基盤を解明する上で重要な知見であり、将来的には人間社会における父親の子育てに関する理解を深めるものと期待できます。
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Inada K, Miyamichi K, Hagihara M, et al, Neuron 110, 12 (2022)


アロステリック薬剤はタンパク質の構造平衡を変化させる

2022年4月12日

Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は、創薬標的として極めて重要な膜タンパク質ファミリーです。GPCRは細胞外のさまざまな刺激を細胞内のGタンパク質に伝える機能を持ち、その最初のステップの一つは、ホルモンなどの分泌因子がGPCRの細胞外側に存在するポケットに結合することです。GPCRを標的とした医薬品の多くは、分泌因子の代わりにこのポケットに結合し、GPCRを活性化することによりシグナルを伝達します。この際に伝達されるシグナルの強さにより医薬品の薬効度が決定すると考えられており、GPCRのシグナル伝達活性を増加させることで、より強い薬効を持つ医薬品が開発できると期待されます。嶋田一夫チームリーダー、今井駿輔上級研究員、金子舜研修生(生体分子動的構造研究チーム)らは、GPCRを標的とする既存の医薬品の薬効が、新たなGPCR標的薬として期待されているアロステリック薬剤により高められる仕組みを明らかにしました。本研究成果は、アロステリック薬剤の合理的な設計や、既存品より高い薬効度を持つ医薬品の開発に貢献すると期待できます。
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Shimada I, Kaneko S, Imai S, et al, PNAS 119 (16) e2121918119 (2022)


甲状腺の初期進化

2022年4月1日

甲状腺は、エネルギー代謝調節や発生、成長、変態に関わるホルモンを分泌する脊椎動物の主要な内分泌器官の一つです。一方、脊椎動物に近縁のナメクジウオやホヤには甲状腺はなく、代わりに内柱という外分泌器官が同じ位置に存在しており、機能的・発生学的な共通性から、甲状腺は脊椎動物の初期進化の過程において内柱から生じたという考えが広く支持されています。また、脊椎動物の中で円口類のヤツメウナギだけが幼生期に甲状腺を持たず内柱を備えていること、また成長過程で内柱が消失し甲状腺へと変化することから、この過程は、「脊椎動物の甲状腺がたどった進化の歴史を再現している」と考えられてきました。また、同じ円口類であるヌタウナギ類はふ化直後から甲状腺を持ち、内柱を持ちませんが、発生の過程において溝状の組織構造を経るという1906年の報告があり、この溝状構造が内柱の痕跡であると解釈されてきました。しかしながら、今回、高木亙基礎科学特別研究員、倉谷滋チームリーダー(形態進化研究チーム)らは、過去の報告とは異なりヌタウナギの発生段階において溝状構造は観察できなかったこと、またヤツメウナギにおいて内柱の形態形成は甲状腺とは独立したメカニズムで発生することを示しました。これは「全ての脊椎動物の共通祖先で祖先的な内柱が失われ、ヤツメウナギで新たな『内柱』が獲得された」とする新たなシナリオを提示するものです。
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Takagi W, Kuratani S, Kusakabe R, et al, BMC Biol 20, 76 (2022)


量子の世界で群れを作る

2022年3月17日

自ら動く要素の集まりである「アクティブマター」は、空を飛ぶ鳥や水中を泳ぐ魚の群れのように私たちの目で見えるスケールから、べん毛を使って動き回るバクテリアのように顕微鏡でしか見えないマイクロメートルスケールまで、自然界にあまねく存在しています。足立景亮基礎科学特別研究員、川口喬吾理研白眉研究チームリーダー(生体非平衡物理学理研白眉研究チーム)らは、古典的なアクティブマターのモデルを出発点として、自ら動く力を持つ量子力学的な粒子のモデルを理論的に構築し、数値シミュレーションを行いました。その結果、量子力学の世界においても、自ら動く力に起因した秩序状態や凝集状態が現れることが示されました。本成果は、これまで古典力学に従う世界を対象としてきたアクティブマターの研究に新しい方向性を示すとともに、新たな量子技術・量子デバイスの開発につながる可能性が期待できます。
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Adachi K, Kawaguchi K, Takasan K, Phys. Rev. E 4, 013194 (2022)