新型コロナウイルスのポケット、世界最高速で試料回転、デングウイルスのRNA複製酵素、肺の新たな幹細胞、オキシトシン神経細胞、お尻の穴を開く、など。
2023年5月から2023年7月までのプレスリリースと論文ニュースからご紹介します。
新型コロナウイルスパパイン様プロテアーゼの構造柔軟性
2023年7月31日
嶋田一夫チームリーダーと白石勇太郎 研究員(
生体分子動的構造研究チーム)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスであるSARS-CoV-2のパパイン様プロテアーゼの薬剤結合ポケットに構造柔軟性が存在し、これがプロテアーゼ阻害剤との結合を制御していることを解明しました。
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Shiraishi Y, Shimada I. J Am Chem Soc 145, 16669–16677 (2023)
世界最高速で試料回転を行う固体NMRプローブを開発
2023年7月24日
石井佳誉チームリーダー(
先端NMR開発・応用研究チーム)らは、固体核磁気共鳴(NMR)法において、世界最高速となる180kHzの回転速度による超高速マジック角回転が可能な検出器を開発しました。 本研究成果により、超微量の生体試料やナノ材料の高感度検出、アルツハイマー病に関わる脳由来の微量なアミロイドβペプチドの解析など、先端研究の進展が期待できます。
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デングウイルスのRNA複製酵素の立体構造を解明
2023年7月21日
関根俊一チームリーダー、大澤拓生 研究員(
転写制御構造生物学研究チーム)らは、RNAウイルスの一種であるデングウイルスのゲノム複製を担う「RNAレプリカーゼ(RNA複製酵素)」の立体構造を解明し、感染細胞内でウイルスが増殖する仕組みの一端を明らかにしました。本研究成果は、有効な治療法のないデング熱やデング出血熱など、デングウイルス感染症に対する抗ウイルス薬の開発に貢献すると期待できます。
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Osawa T, Aoki M, Ehara H, Sekine S. Mol Cell 83, 2781-2791 (2023)
肺に存在する新たな幹細胞の発見
2023年7月20日
藤村崇 客員研究員、森本充チームリーダー(
呼吸器形成研究チーム)、城口克之チームリーダー(
細胞システム動態予測研究チーム)らの研究チームは、肺傷害の修復に関与する可能性がある新しい種類の上皮幹細胞をマウスで発見しました。本研究成果は、オルガノイドを効率よく作製する手法の開発や幹細胞を移植する細胞治療に向けた研究、肺疾患の病因解明に貢献することと期待できます。
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Fujimura T, Enomoto Y, Katsura H, et al. Stem Cells 41, 809–820 (2023)
遺伝子発現を制御するエピゲノムの複製と転写
2023年7月17日
梅原崇史チームリーダー、菊地正樹 研究員、森田鋭 技師(研究当時、
エピジェネティクス制御研究チーム)、白水美香子 チームリーダー(
タンパク質機能・構造研究チーム)らは、後成遺伝情報を担うヒストンのアセチル化修飾が酵素によってどのように「読み書き」され、どのように自己増殖するかについての仕組みを解明しました。本研究成果は、真核生物の細胞で特定の遺伝子が転写されるために必要な後成遺伝情報の継承と発現の原理の理解につながると期待できます。
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Kikuchi M, Morita S, Wakamori M, et al. Nat Commun 14, 4103 (2023)
閉経期マウスの生殖中枢イメージング
2023年6月2日
後藤哲平 研究員、宮道和成チームリーダー(
比較コネクトミクス研究チーム)らは、生殖適齢期から閉経に至る雌マウスの神経細胞の集団活動を1年間にわたって記録することに成功し、卵巣機能が老化して閉経に至っても卵巣機能をつかさどるキスペプチン神経細胞群の活動が維持され続けることを明らかにしました。本研究成果は、卵巣機能の老化に関わる神経基盤を解明する上で重要な知見であり、将来的には更年期障害の理解へと発展するものと期待できます。
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Goto T, Hagihara M, Miyamichi K. eLife 12, e82533 (2023)
個体を傷付けず、生きた心筋活性を光で定量
2023年5月26日
渡邉朋信チームリーダー(
先端バイオイメージング研究チーム)らは、生きた細胞や組織の筋活性を非接触・非侵襲で定量的に評価する技術の開発に成功しました。本研究成果は、iPS細胞から作製した人工心筋細胞の品質管理や心疾患の診断、放射線被ばくの影響の個人差調査などに貢献すると期待できます。
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Fujita H, Kaneshiro J, Takeda M, et al. Life Sci Alliance 6, e202302070 (2023)
母マウスのオキシトシン神経活動を簡便に記録
2023年5月23日
矢口花紗音 大学院生リサーチ・アソシエイト、宮道和成チームリーダー(
比較コネクトミクス研究チーム)らは、授乳行動の鍵となるホルモン物質オキシトシンを作る神経細胞(写真のピンクの細胞)の活動を野生型の母マウスにおいて簡便に可視化する実験系を開発し、授乳期におけるオキシトシン神経細胞の活動パターンの変化を初めて詳細に記録しました。将来的には産婦人科医療に貢献する基礎的知見へ発展すると期待できます。
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Yaguchi K, Hagihara M, Konno A, et al. PLoS One 18, e0285589 (2023)
カエル胚がお尻の穴を開く仕組み
2023年5月17日
加藤壮一郎 研修生と猪股秀彦チームリーダー(研究当時、体軸動態研究チーム)は、アフリカツメガエル胚がアクトミオシンの収縮を利用して原口の開閉を制御し、原腸内の体液を適切なタイミングで排出することを発見しました。本研究成果は、動物の初期発生期において、筋肉の未成熟な胚が体の形成に重要な体液動態を制御する新たな仕組みを提示するものです。
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Kato S, Inomata H. iScience 26, 106585 (2023)
がん悪液質に関わるがん細胞分泌タンパク質の発見
2023年5月16日
岡田守弘 研究員、ユ・サガン チームリーダー(
動的恒常性研究チーム)らは、ショウジョウバエを用いた実験により、がん細胞が分泌する「ネトリン」というタンパク質ががんによる全身症状の発症に関わっていることを明らかにしました。本研究成果は、多くの進行がん患者に認められる「がん悪液質」という筋肉や脂肪の減少といった全身症状の基本的な仕組みの理解に貢献すると期待できます。
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Okada M, Takano T, Ikegawa Y, et al. EMBO J 42, e111383 (2023)
上皮組織の連続性を保つしくみ – EGF受容体シグナルの新しい機能 –
2023年5月16日
吉田健太郎 研修生(
形態形成シグナル研究チーム、林茂生 チームリーダー)らは、キイロショウジョウバエの初期発生において、ストレスを受けた組織が連続性を維持するしくみとして、EGF受容体シグナルを活性化した細胞がアポトーシスを起こした上皮細胞を基底部側に押し出すことで、上皮組織をすみやかに修復させることを明らかにしました。
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Yoshida K, Hayashi S. Development 150, dev201231 (2023)