今回は、砂川玄志郎さんにネホリハホリ聞いてきました。

より安全な救急搬送を

早速なんですが。冬眠の研究をされていると聞きました。なんでまた人工冬眠なんですか?

今は研究者をやってますけど、もともとは小児科医なんですよ。医学部を卒業して5年くらい小児科医をやってました。多くの医学部の方って、医局に入るんですけど、僕は医局に興味がなかったので、入ってなかった。

みんな医局に入るもんだと思ってました。医局に入らなくてもいいんですか。

医局に入らないといけない、というわけではないんです。特に小児科とか麻酔科とかは医局がなくても、もともと医者が少ない領域なので、困らないです(笑)。

で、最初大阪の赤十字病院に入りました。

なぜそこを選んだんですか?

もともと大阪赤十字病院は関西では大きくて1,000床クラスで、実は隣の神戸中央市民病院より大きかった。全ての診療科があって、救急もやっていて、小児科も独立した診療科だったんです。 なので、症例も多いので小児科としては、人気の高い病院だったと思うんです。そこに試験を受けてはいりました。そこで3年やって、国立成育医療センター(現・国立成育医療研究センター)に行きました。成育医療センターで2年。ということで、トータル5年ですね。 成育医療センターでは、特に重症でICU(集中治療室)に入るようなお子さんを主に診る専門だったんです。研究所はあるんですけど、臨床の方にいて、研究することは全く考えていませんでした。

成育医療センターは、日本で一番大きい小児病院ですから、100人くらい小児科医がいるんですよ。なので、関東が多いですけど、日本全国から重症の子が送られてくるんです。

「亡くなりかけているお子さんがいるから診に来てくれ」といった問い合わせも少なくありません。とはいえ、結局のところ、うちに来てもらわないと処置のしようがなかったりするので、搬送することになります。この搬送が実は厄介で、最悪なケースでは搬送中に亡くなってしまうこともあるため気を遣います。

当然のことですが、搬送中に亡くなるというのは、あってはなりません。もちろん救急車が到着した時点で、既に亡くなってしまっていた場合はどうしようもないんですけど、搬送途中でなにかあってはならないので、事前にいろいろ聞きますけど、僕らが現地に行って診察して、そして運べるか判断するんです。その上で、救急車だったりヘリコプターだったりいろんな手段で運ぶんですけど、中には重症すぎて運べないお子さんがいるんですよ。非常に残念なことなのですが、搬送できなくて、でも今いる病院には設備がないために亡くなってしまうこともあります。

運べないお子さんというのはどういう状態なんですか?

イメージしやすいのは、テレビドラマの集中治療室ですね。患者さんがベッドに横たわっていて、管とか人工呼吸がついている。そういう状態です。

植物状態とは違うんですか?

植物状態とは違います。多くの重症な患者さんは、麻酔をかけて沈静しています。重篤な状態の患者さんって、自力で息をすることすらしんどいので、麻酔をかけてわざと機能を奪って、機械で呼吸を行うのです。 でも、この状態だと麻酔によってギリギリ生きているわけで、搬送中に何かあると、全身に負担がかかります。 最近では、救急車の中は設備が充実してきていますが、病院のICUほどはないんですよね。

あと、意外とあの中うるさいんですよ。

救急車に乗ったことあります?

あります。骨折した時にですけど、意識飛んでたので覚えてませんね。

そりゃ、記憶はないですよね。(笑)

でも結構うるさかったり振動も酷かったりするんですよ。なので、ギリギリ生きているような状態のお子さんを運ぶのは本当に大変なんですよ。屋外だったりしたら、しょうがないかもしれないんですけど、僕らが行く場合って、すでに病院にいて、それを運ぶわけですから、しょうがないというわけにはいかないですよね。

診断した結果、「これは運ぶのさえ難しい」とか「治療してもどうにもならない」という場合もあり、その場合は搬送しないという厳しい判断をしないといけないこともあります。

「最初からうちの病院に来ていたら、もしかしたら助かっていたかもしれない」そんなケースが自分の診ていた患者さんだけじゃなく、他の医師からもそんな話を聞くことがあって、それでなんとか安全に病院まで運べないか、と考え始めたのが最初のきっかけですね。

別に冬眠じゃなくてもよかったんです。 なにかいい方法があって、そういう重症の人を安全に病院まで運ぶことができないか、そんなことを考えていました。

運命の出会い

そういうときにたまたま「サルの冬眠」、冬眠サルが見つかりました、という論文を目にしました。忘れもしません。2005年のことでした。

それは出会いですね。医局で論文読んだりするんですね。

研究していたわけでもないし、Natureとか毎日読んでるわけでもなかったですけど。 たまたま当直明けに、雑誌がたくさん転がっていて。たぶん誰か真面目な人が買ってたんでしょうね。パラパラとみていたら、冬眠するサルが見つかった、と。しかも出版されたのは2004年だったので、なんでそのタイミングでそれを目にしたかもわからないんですけどね(笑)。

論文を見ただけで「これはヒトに使える!」とその瞬間に思いました。もちろん、そのまま使える状態ではないんですけど、霊長類ヒトやサル、チンパンジーなどサルの仲間。マーモセットや、キツネザルまで含まれる。実験動物としては、アカゲザルやカニクイザルなどがよく利用される。で冬眠できてヒトでできないわけがないな、と。

読むと、代謝身体の機能を維持するための一連の化学反応。食べ物を消化、分解し、筋肉を作ったり、作られたエネルギーを使って筋肉を動かしたりする諸々。がいかに落ちているか、とか、落ちているのに死なない、ちゃんと帰ってくる、ということがちょっとだけ書いてあって。 それで、これがヒトでできたらどれだけの人が助かるか、ということを思いました。たぶん、麻酔科医やICUにいる人だったらみんなわかると思います。

それで、一人で勝手に感動して。当直明けで疲れていたのかもしれないですけど(笑)。

その日に、大学院に行こうと決めました。5年目の最初のころですね。そして、6年目に大学院に進みました。

そうすると、えーっと、30歳くらいですね。

そうですね。

あ、そうそう。成育医療センターではほとんど麻酔しかやってないんです。実は。

そんなに大きい病院なら、麻酔科医がいるんじゃないですか?

もちろん、いますよ。でも、麻酔のテクニックなしにICUは、無理なんですよ。そういうことって小児科医時代(大阪赤十字病院時代)はわからなくて。

今思えば恥ずかしいですけど、「重症のこどもちゃんを診るんだー!」とすごいかっこいいお医者のイメージで成育医療センターにいったんですけど、実は麻酔の知識がないと何にもできない、ということに気付くんですね。 気づいた後は明確で、麻酔を積極的にかけるようにしてました。

麻酔の経験を積んだ、と。

たった2年といえば、2年なんですけど、小児の麻酔は何百症例とかけました。当時学んだことがベースになって「冬眠させたらいい」というところに繋がっていきます。普通に小児科をやっているだけでは「代謝を落とせばいいんだ」という発想にならなかったかもしれない。

逆に麻酔科医たちはみんなわかります。冬眠のことを話すとみんな目をキラキラさせて理解をしてくださるんです。

そういう土壌があったからサル冬眠の論文をみて、興奮したというのがあるんでしょうね。 いやー、忘れられないですね。あの論文は。

しかも、そのサルって、マダガスカル島なんですよ。知ってます?暑いところなんですよ。

アフリカの東の島ですよね。そんな暑いところなのに冬眠?

そうなんですよ。熱帯で冬眠したサルがいる、ということ自体もその論文には驚きが詰まっているんですけどね。でも、最初に読んだときはそのことはわかってなくて。

そもそも冬眠って?

そもそもですが、冬眠って、どういう状態なんですか?

かつては、文字通りに冬に食べ物がなくなって、動物たちが食べなくても生き長らえるために自ら基礎代謝を下げて、必要なエネルギーを落とす状態、と定義されていました。だから広く「冬眠」と言われてたんですけど、そのマダガスカルのサルもそうなんですけど、いくつかだんだん冬がない地域でも同じよう状況の動物が見つかってきたんです。

なので、最近言われているのは、「動物が自分で自分にエネルギーをうまく供給できない場合に、みずから省エネモードに入ってしまって、そこを生き抜く、生存するための戦略」という理解です。

なので、代表的な状況は冬ですが、冬に限らない。僕の扱っているマウスでも、冬じゃなくてもエサさえ抜けばそういう状態に入ります。そういう機能を持っている、あるいはそういう機能を発揮した状態を冬眠と呼んでると思います。なので、冬だけに起こることではないので、字からだんだんずれていってるんですけど。

Yakushiji interviews Sunagawa

パソコンが、スリープモードに入っているみたいな感じですね?

そうですね。まさに、パソコンでもハイバネーションモードとか言いますよね? 「ハイバネーション」って「冬眠」という意味なんですけど、パソコンは別に冬じゃなくてもハイバネーション入るじゃないですか(笑)。だんだんそっちの意味合いに近づいていっている気がしますね。

だから、冬眠というよりは、休眠って言ったほうが適切なのかもしれないです。 基礎代謝を最低限必要なエネルギーレベルまで下げること、しかも自分で落としたいと思っているはずなので、代謝を能動的に落とす、という。

すごい仕組みですね。今のモデルマウスは、エサを抜くとかするとそのモードに入るんですか?

はい。すぐじゃないですけど。 飢餓なり低栄養の状態が体にとっていい、という話があるじゃないですか。たぶんそれを突き抜けた状態なんじゃんないかと思うんです。

少し栄養が少ないと体のいろんな機能がアップするとか老化が遅くなるとか免疫が上がるとかいろんな報告がありますし、そんな研究はたくさん行われていますけど、冬眠とかマウスの休眠とかは、その低栄養よりさらにその先の状態になった時に、もう他にどうしようもない、いかんともしがたい状態になった時に入る状態なんだと思うんですね。

なので、低栄養によるメリットとはちょっとまた違うのかな、という気もしています。

一方で、冬眠も低栄養によるメリットがあるから入ってるんだ、と考えている研究者もいますし、そこままだはっきりしないですね。まぁ、仕組みがわかってたら研究してないんですけどね。

そりゃそうだ(笑)。

少なくとも、エサがある状態で休眠モードに入るマウスはいないですし、動物の中にはわざわざエサを溜め込んで自分で冬眠に入っちゃう動物もいるので、そういう例をみると冬眠そのものになにかメリットがあるのかもしれないですね。

冬眠の生理的な役割を考える時に、食べ物がない時にそれをしのぐというという部分は間違ってないと思うんですよ。たとえば、食べ物だけじゃなくて、そもそも冬って生き物にとって辛いんです。寒いから。我々はなぜか体温を37℃に維持する仕組みを持っているんですが、それはそれでメリットはたくさんあるんです。いろんな臓器からみると37℃に合わせて最適化されているので、体温調節のことはいろいろ気にせずに脳の一部に任せることができている状態。

ところが37℃に維持するということ自体が、すごい大変なんです。周りの温度が上がったり下がったりしても、温度を37℃に維持しないといけない。まさにエアコンです。恒常性を保つ、というのはそれなりに大変で、ヒトは体にすでにそういうすごい機能を持っているのに、さらに外側にもエアコンを作ろう、と考える不思議な生き物です。体温が37℃というのは、他の哺乳類も±1℃くらいで、だいたい同じくらいなんです。

そうすると大きい動物って、人間も哺乳類の中では比較的大きい方なんですけど、大きい方が体温を37℃に維持するエネルギーが少なくすむ、というのはなんとなくイメージでわかりますか?

表面積と体積の比率の話ですかね?

正解です。37℃に保つのは体積に対してですが、熱が逃げていくのはその表面なので表面積が効くんです。体が大きいほど体積に対する表面積が小さくなっていくんですね。

体積が大きくなると、相対的に熱が逃げにくくなるので、同じだけ熱を作っても冷めにくいんですよ。クマとか、ゾウなんかは、ほんのちょっと熱を作るだけで体温を維持できちゃう。逆にそれは現在ゾウ以上に大きい動物が地上にいない理由だと思います。

あ、そうなんですか?

ゾウの体積あたりの酸素消費量って、冬眠中のリスくらいなんですよ。めちゃ面白いでしょ。もし、ゾウより体を大きくしようとしたら、細胞あたりとか体積あたりの酸素消費量をもっと落とさないといけないので、たぶん細胞が死ぬんですよ。

なので、今の地球上の動物でゾウ以上におおきいのがいないのはそういう理由なんじゃないかな、と。でも、海の中だともっと熱が抜けるので、クジラとかのサイズが出てくるんですね。ほら、マンモスとかは寒い時代じゃないですか。

でも、ジュラ紀とか白亜紀とかもっと暖かい時代ですよね。

恐竜はまた違うんです。そのあったかい時期に哺乳類がどのくらい大きかったか、は別問題ですね。でも実際のところ、実は恐竜も体温は高かったんじゃないか、という説があります。あれだけでかくて細胞を維持していると、まったく熱を作らなくても体温は高い状態に保たれるはずだ、と。恐竜は変温動物だったかもしれないんですけど、実は体温はそこそこ高いんじゃないかと言われています。

恐竜は恒温動物体の外の環境にかかわらず体温を一定に保つことができる動物。ヒトなど哺乳類、鳥類などが恒温動物。反対に外界温度に体温が影響を受けやすいのが変温動物。イグアナが日向ぼっこをしているのはこのため。だったんじゃないか、という説もありますね。

そうなんです。やっぱり大きい恐竜は動きづらさというのもあると思うんですけど、多くが水中にいたというのもそういう理由なんじゃないかと思うんです。だって、ある程度体温が高くなりすぎると暑くてなにもできなくなるんで、水の中にいるしかない。大きい動物になると、結構水の中にいることが多いですよね。そういう面もあるのかな、と。浮力で動きやすいというのもあるんでしょうけど。

ヒトはクマよりちょっと小さいくらいのちょうどいいサイズで、マウスほどには体温は落とせないかもしれないんですけど、基礎代謝を落として必要なエネルギー量を下げるようなことができれば、少なくともクマ並みには冬眠はできるだろうと思ってますね。

歳をとったからか、最近いつも眠いです。

生物的には、歳をとると睡眠時間が短くなるんですけどね(笑)。

死んでないのに脳波がない!?

研究で使用するモデルマウスは特殊な仕掛けがあるんですか?

今は、普通のC57BL6/Jノーマルとしてよく使われるマウス。ワイルドタイプなどとも呼ばれることもあり、実験ではコントロール(=比較対象)として使われることも多く、薬剤を与えているマウス、与えていないマウスを比較する場合、与えていないマウスとして登場することも多い。という生命科学の研究によく使われる黒いマウスを使っています。なにも特殊な仕掛けはありません。

というと、遺伝子組み換えとかしたような特殊なマウスではない、と?

そうです。いわゆる「冬眠モデル」ではないんです。確かに、びっくりされます。エサを24時間くらい抜くと、マウスの体温は20℃台くらいまで落ちちゃいます。通常は37℃くらい。これは、飢餓の実験(starvation)とかをやってる研究者は知ってるはずなんですけど、それを知らずにやってる人もいるんじゃないかな。

マウスを断食させるんですか。

一応、動物倫理で2日以上は禁止されてます。2日以上絶食させるとマウスは死ぬようです。休眠モードでは意識は失ってるんですけど、いよいよやばいとなると起きてくるんです。なにもない、と思って休眠に入るのに、さらにもう無理だとなると起きるんですよ。

クマとかも刺激があると起きるっていいますよね。

あ、クマは話が複雑なんです。彼らは冬眠中も意識があるんですよ。子供を産むものもいます。クマはですね、基礎代謝は半分以上減るんですけど、冬眠中も体温が31℃くらいまでしか落ちないんですよ。みなさんが冬眠と言って想像するような、リス、ヤマネ、ハムスターみたいなかわいい系の冬眠動物たちはみんなクルッとなって、つついても動かないし、つついて動き出すまでに1時間くらいかかるらしいです。クマは冬眠中でも動くので、彼らとは違うんです。

そういう小さい、体温が一桁くらいまで落ちちゃうような動物たちも、たとえば冬眠中に部屋の温度をどんどん下げていって4℃とか3℃とか切るような環境にすると、熱を作り始めるんですよ。寒すぎて。冬眠中も、いわゆる自律神経系の一部分は残っているだろう、と言われています。あるところまでいくと、さすがに冬眠動物も厳しい。凍死しちゃう。面白いのは、この状態でも脳波はほとんど無いんですよ。脳死の判定基準に脳波の平坦化というのがあるんですけど、その状態と同じです。とすると、一体どこで体温が落ちているというのを検知しているのか。

外の環境に対応する部分を脳で処理していない、ということになりますね。

めちゃ寒くして脳波があるのか見れたら面白いんですけどね。

マウスで脳波とか見れるんですか?

それは簡単です。睡眠の研究もしてましたけど、脳波は普通に取れますよ。取れるんですが、マウスだとめちゃめちゃ下げた時に、復活しないで死んでしまうようです。なので冬眠動物ほど寒さに強くはないんですよね。ぜひ、冬眠動物でそれをやってみたいですね。脳じゃないところでセンサーしてたら面白いですよね。

クマにヘッドセットとか。

クマは現実的にアリじゃないですかね。ただN数サンプル数。科学的に議論をする際には、統計的に差があるかという議論が欠かせない。その場合に必要になるのがサンプル数。統計用語として「N」と表記されることが多いので、N数とも言われる。を稼げないんですよ。クマの冬眠の研究ってほんとすごいんですよ。かなり命がけだそうです。だから、観察しようとすると麻酔をかけないといけないんですよ。でも、麻酔をかけちゃうと何やってるかわかんなくなっちゃう。そこがちょっとクマでの冬眠研究は難しいところです。

なぜ、麻酔→冬眠なの?

ちょっと話が戻るんですけど、麻酔をやっていて、冬眠の論文を読んで「これはいける」と思ったところがよくわからないんですよ。

なるほど。そこは確かに。じゃあ、まず麻酔と冬眠の違いから説明しますね。麻酔自体は、患者さんにも説明する時の内容でもあるんですけど、いくつかの機能を手術している間、止めますよ、と。

一つは意識。意識があるままにオペされると辛いので、意識を無くします。もう一つは痛みを無くします。意識がなくても、痛みがあると体にストレスがかかるので。最後は筋力を奪います。筋力を奪う理由はオペ中に動かれると危ないからです。麻酔は、その3つを止めます。

この場合、問題が一つあって、筋力を奪うと呼吸が止まるんですね。心臓は勝手に動くので関係ないんですけど。呼吸が止まっちゃうので、それをサポートするために人工呼吸器をつけますよ、と。これがいわゆる全身麻酔です。

一方で冬眠は、意識はないと思うんです。痛みに関してはよくわかってないです。ただ、脳波がないところをみるとおそらく感知していないのではないか、と思います。筋力もないです。だらっとしてますから。なので、そういう部分では麻酔と冬眠は非常に似てるんです。

で、ICUに入っている患者さんには、麻酔をかけて鎮静しているってお話しましたよね。それは、必要なエネルギーを下げてやる、ってことなんです。ICUに入っている患者さんは、たとえば心臓が弱っていたりしますよね、そうすると心臓って全身に血を送らないといけないので、それなりにエネルギーが必要なんですよ。

でも、その心臓が弱ってるとなると血が全身に行かなくなってしまうので、体の細胞がエネルギー不足で苦しくなったり、脳に行かなくなったら脳梗塞になったりいろいろするわけです。それを防ぐためには、強心剤とか、昇圧剤という血圧をあげる薬を使ったりするわけですけど、そういう「叩く系」の治療は叩いても限りがある場合があって。そうなると次にやるのは、必要なエネルギーを下げることなんですよ。

体はもともと、心臓がバンバン働かないと足りないくらいエネルギーを欲しがっているんですけど、それを減らしてあげれば弱った心臓でもなんとかなる。その間に治療しましょう、という発想です。なので、麻酔をかけるんです。麻酔をかけると代謝が落ちるから。相当っていっても、せいぜい普段の1割とか、2割くらいが必要なくなるだけです。それが現状。麻酔をかけてしまって、呼吸もできなくする。呼吸は1分間に10回くらい息吸ったり吐いたりしてるので、それに使うエネルギー、ATPアデノシン3リン酸。adenosine triphosphateの頭文字。体内で行われる様々な化学反応のエネルギー源となる。主に細胞内のミトコンドリアで産生される。もいるわけで、これを機械が肩代わりすればその分必要なエネルギー量は減って、それだけでもだいぶ楽になると言われています。

さらに筋弛緩剤といって全身の筋肉に力が入らなくなるする薬で筋力を奪いますから、その分ATPの消費も減りますし、そうすると心臓の負荷が減りますよね。だから、ICUでは麻酔が大事なんです。

冬眠状態と麻酔状態での必要エネルギーのギャップ

ところが、冬眠動物たちの中で、すごいものは基礎代謝が1%くらいになるんです。1%ですよ。誤差じゃないか?と思うくらいです。でも、生き返ってくるんですよ。そうすると理論上は心臓が1/100しか働かなくていいんですよ。

桁違いじゃないですか!

そうなんですよ。だから論文を読んだ当時、当直明けの寝ぼけまなこでしたけど、そこだけは話が繋がったんですよ。代謝さえ落とせれば、いろんな臓器の負担を一気に減らすことができるので、麻酔や搬送中の叩く系の処置を減らすことができるんじゃないか。一回も叩かずにいけるかもしれない。一呼吸したら30分保つかもしれない。そういう感覚です。だから火星にいくのも一緒です(笑)。代謝を落とせば、必要なエネルギーが少なくて済むんですよ。

そうすると、長生きになったり?

そこはよくわかってないんですけどね。冬眠中に時計がゆっくりなるんじゃないか。いわゆる体内時計体の中には様々な「時計」がある。たとえば、概日リズムと呼ばれているものは1日25時間で刻んでいると言われている。ここでいう体内時計は、連鎖的なループにより周期的に振動する化学反応により刻まれる「時計」のことを指している。とは、違うんですけど。そうすると長生きできるんじゃないか。とは考えられますけど、そこまではわかってない。冬眠しても長生きにならなかったら、あんまり意味ないかもしれないですね(笑)。だから、そこはやってみないとわからないというところです。

冬眠動物はもともとヒトみたいに何十年も生きるものっていないんですよ。まぁ、そもそも人間みたいに80年も生きる動物もあまりいないので。亀とかはすごい長生きですけど、代謝がめちゃめちゃ低いという話がありますね。哺乳類ではないので、冬眠中の代謝がまた違うんですよね。学ぶところはいっぱいあると思うんですけど。

もともとのモチベーションの搬送の話ですけど、冬眠状態にして搬送できるメリットはどこに?

代謝を落とさなかったら、心臓が弱っている患者さんがもっとエネルギーが必要になった場合にその方はお亡くなりになっちゃうんですよ。負荷をかけないように、体のニーズを減らすことで弱った心臓や呼吸でも亡くならない。それは搬送の安全性を高めることになる。現代の医療はすごく進んでいますが、そんな中で大事なのは安全性だったり、だれがやってもうまくいく方法です。

今の医療って、さっき言ったような、強心剤とか人工呼吸器とかサポートする「叩く系」「上げる系」の治療ばっかりなんですよ。ICUとかは麻酔をかけるとかでニーズを減らすようにしていますけど、本当に冬眠をバンバン使えるようになったら、医療の根本的な構造を変えられるだろうな、と思っています。「叩く系」「上げる」の医療じゃなくて、「下げる系」の医療ですね。需要の方を減らすことで、いま持っている身体機能で十分に体を維持できるようにしてあげるとか、そいういうことができるんじゃないか。だから、まずは急性期からだと思ってます。

将来的にはがん細胞だけを冬眠させるとか、あるいは腎臓の片方だけ冬眠させて将来に取っておくとか、そういったことも多分できるだろうし、いままで考えられてこなかった節約、臓器の代謝を節約するといった概念に持っていけるといいんじゃないかと思っています。長い目ではね。

それって、低体温療法にいイメージ近いんですかね?

想像されているのは、患者さんを冷やして病気の進行を遅らせるとか、ですよね?基本的な概念は一緒なんですけど、最近は低体温治療ってしないんです。というのは、低体温療法と言われているのは、脳梗塞、心筋梗塞など重症な人たちを少し冷やすと予後がいい、という報告があって信じられていました。ところが、6年前に結構大きなメタアナリシス様々な研究により得られたデータを統合し、新たな知見を得るための方法。例えば、病院A、大学B、研究所Cで行われた別々の研究を統合して新たな解析を加えるなど。があって、それをみると、心停止後の重症患者を冷やすのも、36度に保つのも予後に違いがない、ということがわかったんです。なので、最近だと冷やさないですね。冷やしても一瞬ですね。1日とか。ただ、熱が出るのはまずいんですよ。38℃や39℃になると予後が悪くなるというのがわかっているので、36℃までは冷やすんです。

でも、冬眠とは根本的に違うんです。冬眠は冷やしているわけじゃないので。自律的に代謝を落とすから体温が落ちるんです。順番が逆なんです。さらに違うのは、今、酸素を吸って二酸化炭素を吐いて熱を作っていますよね。これで37℃を保っているけど、冬眠状態の動物って、そもそもこの化学反応自体が違っているので…

冬眠は細胞レベルでの説明が必要

ん?化学反応が違う?

そうです。化学反応のレベルで違うはずです。例えば、普段の呼吸で酸素消費量がどのくらいだったら、代謝がどのくらいになるかは計算できます。で、化学反応の有名な法則で、Q10の法則いうのがあって。

知りません…。

温度が10℃下がると、だいたい化学反応速度って半分くらいになるっていう摂理があって、だいたいこれに従うんですよ。そうすると、冬眠動物だと、すごいやつだと37℃から一桁台まで下がるので、30℃くらい落ちるわけですけど、温度が30℃くらい下がると、化学反応が1/8とか1/10くらいまで下がるということになるはずです。その傾向で代謝を落とした時に予想される酸素消費量よりも、冬眠状態ははるかに代謝が低くなるんですよ。冬眠状態では、実際には酸素消費量は1/100くらいになるんですね。ということは、オーダーが違うわけで、化学反応としてそもそも経路が違うだろう、ということが言えます。今までとはなにかしら違う化学反応が起きている、と考えないと説明がつかない。

なので、冬眠中と正常状態では、熱を作る仕組みだったり、体温を維持する仕組みみたいなものが根本的に変わっているはずなんです。それを知りたいんですよね。

仕組みごと違うのでなければ、使ってる酸素が少なすぎるので、人間と同じで細胞そのものが酸素不足で死ぬはずです。細胞に必要な酸素量が減ってるはずなんです。細胞の基礎代謝が落ちている、というのが冬眠動物の鍵です。それは、全くまだわかっていない。冷やせば当然化学反応はゆっくりになります。でもそれ以上に落ちてるんですよ。そこが知りたいんですよね。

それが実現できれば、先ほどの「がん細胞にターゲットしたり」という話になるんですね。

そうです。また、逆も思うんですよ。代謝をあえてあげることもできると思うんですよ。

そうしたら痩せますね(笑)。

それもできるかもしれません。でももっと面白いことがあります。たとえば、神経を考えてみると、神経って自発発火しているし、膜電位細胞は膜で覆われているが、その膜を境に細胞の中と外での電位の差。細胞内にはカリウム(K+)が多く、細胞外にはカルシウム(Ca2+)が多いため、電位差が生じる。細胞は、カリウムとナトリウムを膜を通じて出し入れすることで、膜電位を一定に保っている。を保たないといけないので、かなり酸素を使うんですよ。もしですよ。冬眠中って神経細胞も寝てるので全く発火しなくなるんですけど、逆を考えてみてくださいよ。

発火しまくり?

頭の回転の速い人って、細胞あたりでみた代謝がちょっと高い人なんじゃないかな、と思ったりするんですよ。たぶん見た目は変わらないと思うんですけど。同じ膜電位を保ったりするんですけど、発火した後にどのくらい元の状態に戻るか、とか。その現象って、まさにATPの消費なんですよ。そこが人よりも効率的にできる人というのは、頭の回転が速いんじゃないか、とか。全くの空想ですけど、そんなことを思ったりしてます。冬眠のことを研究していると、細胞レベルの代謝のスイッチングみたいなんことがわかって、実はいろんな臓器や組織においては、少し必要な時にパワーアップしたり、いらない時は抑えたりということga
できるようになるんじゃないかな、と。

基礎代謝のコントロールができると面白いですね。

「念ずれば冬眠」…?

今は、「人工冬眠」ということで研究してますが、最終的には「念ずれば冬眠」に入れるんじゃないかと思っています。

念ずれば…?

ちょっと昼寝するわ、くらいの感覚で、体温が20℃台まで下がってる状態に入れるような。

帰ってこれるんですかね…?

今は、ヒーターあるし大丈夫でしょう。人間が冬眠できるようになったら、それだけで寿命伸びると思うんですよね。そこまで人間を持っていければいいと思うんですけど。たとえば、スーパーヨギーたちは、瞑想する時に体温が極端に低下するらしいんですよ。彼らは、冬眠かどうかわからないですけど、自らの意思でそういう状態になってるわけですよ。

あるいは、雪山で遭難して助かる人っているじゃないですか。あれって、みんながみんな助かるわけじゃないんですね。冬眠アビリティをもってる人が助かってるんじゃないか。そんなことも思うんです。

僕ら人間は氷河期を生き抜いてきた生物でもあるし、冬眠するサルもいるわけだし、そういう機能や能力を持っている人もいるんじゃないか、と思うんですよね。確率は全くわからないんですけど、そういう「持ってる」人がそこそこいるんじゃないかと思ってるんですね。だから、念ずれば冬眠に入れる、っていうのもいずれできるようになるんじゃないかな。

どこかにスイッチがあるのかもしれないですね。

そうですね。本当は、大部分の人間はみんな持っているんだけど、氷河期が終わって何万年か経って、冬眠しなくても死ななかった。だから、mutation遺伝子変異。DNAの一部が何らかの原因により書き換わって生じる。Mutantは、変異体。が入ってできなくなった人もいっぱいいるんだろうけど。

あるいは、持ってても使ってないだけかもしれない。

なので、トレーニングしたらできるようになるのかもしれない。もしかしたら特別な薬とか器具とかなくても、そういうことを起こせるんじゃないか、と思ったりするんですけど。

修行僧とかは、たぶんそういう状態でないと、あの修行はできないですよね。

そうかもしれません。僧侶で偉い人は、そういうことができたから偉くなってるのかもしれません。みんなができるかはわからない部分はありますけど、そういうgenotyping遺伝子型の計測。genotypeは遺伝子型。たとえば、お酒に酔いやすい人とそうでない人は、アルコール分解酵素の遺伝子に変異(mutation)があると言われている。これを調べるのがgenotyping。遺伝子検査にも利用される。ができても面白いかもしれない。せっかく、ヒトの場合iPS iPS:induced pluripotent stem cells(人工多能性幹細胞)ES:embryonic stem cells(胚性幹細胞)の略。いずれも様々な細胞に分化する能力を持ち、多能細胞などとも呼ばれる。iPSは京都大学の山中教授により開発された細胞であるが、それ以前はESが研究の中心であった。が今あるので、やろうと思えばできる。いきなり人を低温室に入れたりできないけど、細胞ならできる。

絶対ヤですね…。

ですよね。でも、細胞だったらできるので、そういうアプローチはありかな、と思ったりしますね。せっかく日本にいるし。この神戸理研だとやりやすいですし。偉い高僧とかスーパーヨギーとかのiPSとか。そういうすでに表現型がある人の代謝とiPS、脳波は欲しいですね。脳波は少しは取られているらしいですけど。そういうのを形にして研究していきたいと思いますけどね。確かに、「念ずれば」と言ってしまうと、ちょっと怪しいとかいうイメージがありますけど。

きっと脳回路の使い方なんでしょうね。マインドフルネスや瞑想って、自分で脳の使い方をコントロールできるようになるトレーニングともいえるので、あながち変な話でもないかもしれないですね。

「念ずれば低代謝」ができると、薬とか機材とかいらないのがいいところです。現状では、睡眠ですらコントロールできていないのに、できるのかというのはあるけども。 ちなみに基礎代謝が下がって身体の要求が減れば、食べる量も減るし、食料問題にも貢献するかもしれないです(笑)。

救急でも使えるかもしれませんね。

代謝を落としてから意識を失う、という訓練ができたら使えるかもしれません。心筋梗塞が起きたら、代謝を落としてから意識を失う、みたいな。もしできたら、ですけど。でも、心臓の不必要な出力を抑えるというのは、生き物としては自然だと思うんですよ。動物なんか見てると、飢饉が来たりすると、低代謝の時期や長さを変えたりするんですよ。そういったことを人がうまく導入するというのは、不自然ではないと思うんです。

救命講習と、低代謝講習、みたいな。

代謝を落としてから意識を失う。

冬眠研究が高齢化社会に貢献するかも?

今後は細胞の方にググッと?

今は、マウスのES細胞とか使ってますけど、冬眠と睡眠の一番本質的な違いは、睡眠は脳がないと多分無理なんですけど、冬眠は細胞レベルで議論できる点だと思ってるんです。結局「基礎代謝」の話なので。制御は脳でやってるかもしれないけど、低代謝、低体温に耐えられるかという議論は細胞レベルの話なので、in vitrovitro“はガラスの意で、「試験管内で」を意味するラテン語。一方で、「生体で」を指す場合は”in vivo“という。ちなみに、「体外」を指す場合は”ex vivo“という。診断技術などでもよく登場する。斜体で表記する。の実験系に持っていきたいと思っていますね。そうするとヒトのiPS細胞でもできるし研究が進むと思っています。

一方で、今お話ししたような中枢から迫るアプローチも当然ありですし、持ってるヒト探しということでは頭から行った方がいいですけど、そっちは共同研究で進めていけたら、と思っています。

やっぱり、冬眠すると長生きしそうな気がしてきましたが?

代謝が遅いと老化が遅くなるとは思います。あらゆることがゆっくりになることが予想されます。冬眠動物は、おなじ種の中では割と長生きだ、ということが言われています。なので、人が冬眠できれば長生きするんじゃないか、ということも考えられます。

冬眠動物って、何ヶ月も動かないのに、筋肉が減らないんですよ。脂肪だけを使っていく仕組みがある。

筋肉が減らない?それは、すごい。

そうすると寝たきり老人の予防にもなるし、事故で半身不随になった方とかの筋力の保持にも繋がるかもしれない。

将来的に、再生医療が進んで神経細胞は戻ったとしても筋肉が落ちてたらどうにもならないのですしね。

お年寄りの何割かは寝たきりなっちゃうんですけど。病院でよく見られるのは、もともと認知症でない人が、骨折とかで入院したとする、1週間入院する、その間に筋肉が落ちてしまって、起き上がれなくなってしまう。そのまま寝たきりになってしまう。起きれなくなると一気に認知症が進むんですよ。そういうのをうまく予防できないか、と思っていて、それができると高齢化問題に貢献できるかもしれません。基本的に筋力を落とさないようにしておけば、いろいろな機能低下は抑えられるかもしれない。

今後は、これを本当にできるのか、というのを証明していかないといけないですね。まだまだ業績足りませんし、頑張らないといけません。 理化学研究所は動物実験設備が素晴らしいので、冬眠研究をするにはとてもいい環境です。これがあるから、自分はここでやりたいと思いますね。もっと、一緒にやってくれる研究員が来てくれると嬉しいですね。

冬眠って奥が深いんですね。とてもおもしろいお話しありがとうございました。

編集後記

風貌からするとちょっと強面の砂川さん。ちょっと話すと優しい語り口調で、「いるいる、こういう小児科の先生」といった感じ。非常に親しみやすく、難しい話も優しくしてくれる。そんな研究者。冬眠の研究というちょっとキャッチーなテーマであるものの、もともとは臨床での課題を解決したいというところがスタートで、麻酔から冬眠への接続がナゾでした。今回その謎が少し解けた気がします。

薬師寺秀樹(やくしじ・ひでき)

神戸医療産業都市推進機構アドバイザー。国内外の理化学メーカーや商社を経て、2013年から理研。共同研究、事業開発と同時に、神戸医療産業都市の発展にも力を注いでいる。

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