今回インタビューするのは、卵子の研究をしている高瀬さんからのご紹介で、三品さん。なかなかインタビューの日程が決まらなかったので、候補として名前が上がってから実際にインタビューさせていただくのに結構時間が空いてしまいました。その理由を聞いたら「フナを捕りに行く」ということらしい。趣味なのか…?と思いながらインタビューに突入します。(聞き手:薬師寺秀樹

ちょっとフナ捕りに琵琶湖へ…

このインタビューの予定がなかなか立たなかった理由がフナと聞いたんですけど…?

クローン繁殖をしているフナがいるんですが、そのサンプリングにフィールドワークに出てたんですよ。

いきなりツッコミどころ満載なんですけど…(笑)えっと、フィールドワーク?

フィールドワーク、野外調査です。日本全国レンタカーを借りて回るんです。

なるほど。今回はどこに行ってきたんですか?

今回は琵琶湖で捕ってきました。琵琶湖、捕りやすいんですよ。

普通に釣る?

沼で投網する人
ラボ旅行のときの投網の写真(撮影:濱田香)

琵琶湖だと、投網を投げてます。

漁師かっ(笑)。っていうか、漁業権持ってないとダメだったりしないんですか?

そうですね。ただ、琵琶湖の場合は漁業共同組合が管理をしていない場所であれば投網を使っても大丈夫なんです。一般的な河川だと、基本的には、たも網を使います。フナを捕るときって大体水が濁ったところ、そういうあまり人が好んで入って行きたいなという感じじゃないところに生息しているので、そういうところでルールを守って捕っている分にはそんなに文句は言われないですね。
ただ、周辺が田んぼとかが多い小川や水路がメインのフィールドになるので、畑仕事帰りのおっちゃんやおばちゃんたちに、すごい絡まれます。
やっぱりフィールドワークで一番大事なのは元気良くあいさつですね。

じゃあ、せっかくだからやってみてもらいましょう(笑)。

「こんにちは!」

(笑)。「お前何やっとるんや?」

「フナ捕ってます!」(キリッ)
そのあとは、「フナ?!」って言われて、「はい、フナです」「フナここ捕れるの?」「そうですね。まあ一応捕れなくはないですね。最近フナ見ましたか?」みたいな感じで聞いていって、「ああ、見ないね」とか言われたらちょっと「場所を変えようかな…」ってなります。

情報をゲットしてる…(笑)。

情報ゲット大事ですから。

採集場所はどうやって決めているんですか?

一番よく使うのは論文などの採集記録ですね。あとは河川水辺の国勢調査や河川整備基本方針といって、川のどの場所でどんな魚が捕れましたよ、というようなリストがあったりするんです。そういうところからどのあたりでフナが捕れるかという情報を入手します。

結構普通だった。

まだありますよ。僕みたいな玄人になってくると航空写真を見ると、ある程度フナがいそうなところが分かるんです。
まず航空写真から、田園地帯が広がっていて、ちょっと傾斜が緩めなところを探します。採集記録とかも含めてここなら捕れそうだと狙いをつけたら、Googleストリートビューで川の様子を上から見るんです。フナって、水草が生えていたり、水辺の岸に植物がけっこう生えているようなところがよく捕れるんです。だからストリートビューで見てみて、コンクリート護岸になっていたりするところはフナが捕れないことが多いので、除外します。
特に、ストリートビュー上で橋の上に移動すると川がよく見えたりするんです。そういった情報から、川や水路に入っていって魚が捕れそうか。そういう情報を抽出してくるという感じです。地域によって捕りやすい環境が違ったりもするので、感覚の部分も多いんですけどね。

漁師に弟子入り?

実際、修士のときは漁師をやっていたんです。

漁師をやってた!?

漁師さんに協力していただくというのは、フナを集めるときのオプションなんです。琵琶湖の漁師さんに漁に一緒に連れて行ってとお願いをするんです。漁師さんの力添えなしにはできない研究もあるので、大変お世話になりました。

バイトとか弟子入りみたいな感じ?

それに近いことをしていた時もありましたね。琵琶湖だとエリ漁というのがあるんですけど。定置網漁です。定置網漁に一緒に連れて行ってもらって、一緒に網を上げて、フナが捕れたらそれをちょっともらうみたいな。そういう感じで忙しい時は週2回とか行っていましたね。

ほんとにバイトっぽい。

でもお金ではなくて報酬はフナ。捕れなかったら無報酬です。

完全成果報酬。

捕れないと漁師さんにも気を遣わせてしまうので、申し訳なくなります。少し他の魚をくれたりすることもありました。けっこう漁師さんにも気に入ってもらったりとかして、「継がないか?」とか誘われたこともあります(笑)。

元々釣りは好きだったんですか?

釣りは好きでしたね。でも子どもの頃よくやっていたのは、小川で魚を捕ったりとか、そういうのが多かったですね。

やっぱそういう少年時代なんだね。

そうですね。なのであんまり変わっていない。

そもそもずっと魚に興味があるんですか? 子どもの頃から。

小学校の頃は結構魚ばっかりでしたね。その後はよくありがちな、部活とか他のことに時間を割いていましたね。大学からもう1回魚に戻ってみたいな。

ほぼ魚人生ですね。

まあそうですね。客観的にはそうだと思います。

フナは全部メスの話

じゃぁ、研究の話に移りましょうか。えっとクローン繁殖生まれてくる子が親と遺伝的に同一(クローン)となる繁殖。フナのクローン繁殖のように、発生するためには精子による受精刺激が必要だが、精子のゲノムが使われない発生様式のことを雌性発生という。って言ってましたよね?クローン繁殖ってことは、遺伝情報がずっと変わらないのが継代されているフナがいるってこと?

そうです。野生でクローン繁殖しているフナがいるんです。

え?そんなことあるんですか?

日本で一番多く見られるフナがそれなんですよ。図鑑的にはギンブナと呼ばれます。

じゃあ、あれ?おじいさんもおばあちゃんもお父さんもお母さんも僕も妹も弟もみんな遺伝情報同じってこと?

そうですね。あえて訂正するとしたら、全部メスなので僕がいない、くらいですね(笑)。

おじいちゃんもお父さんもいない?

全部メスです。

…???? どうやって繁殖というか次世代を生んでいくですか? 某マンガのピ○コロ大魔王みたいに自分と同じものが出てくるってことですか?

疑問のとおりで、クローン繁殖をするメスのみだと繁殖できなくて、オスの精子が必要なんです。ややこしいので少し順を追って説明します。昔から、野外でフナを捕ってくると、結構メスに偏っているなぁ、みたいなことがあったんです。で、「なんでこんなメスばっかなんだ?」というのを調べた研究者がいるんです。その結果、どうやら2倍体と3倍体が混在していることが分かった。
そして、染色体の数が3n=150ある、つまり3倍体両親それぞれの配偶子から1セットのゲノムを受け取る生物を2倍体という。3倍体の場合は、3セットのゲノムをもつ。のフナはメスばっかりだったんです。2倍体のフナは有性生殖をしていて、オスメス両方いる。野外では、この有性生殖をしている2倍体のフナとクローン繁殖をしている3倍体のフナが同じ場所で生活しています。

2倍体と3倍体のフナの生殖の違いの説明図

クローン繁殖の場合、受精はするんですか?

受精するんですけど、精子のゲノムが使われないんです、発生の初期段階で排除されてしまうんです。野外だとこの3倍体のクローン繁殖をするフナは、有性生殖をする2倍体のオスのフナをだまして精子をかけてもらうんです。

無駄打ちさせるってこと?

無駄打ちさせますね。で、生まれる子どもは全部このメス由来のクローンが生まれてくるというシステムです。

2倍体のほうのフナは2倍体のメスもいるんですか?

います。そっちは2倍体のオスとメスで繁殖します。

2倍体と3倍体って、違う種類のフナってことですか?

そうですね。一応「違う種類」と言うのが無難なのかな。染色体数とかいろいろ違いますからね。ただ、遺伝的になかなか区別をするのは難しいんです。

2倍体か3倍体かが違うだけで、ゲノム上に書いてあることは一緒?

ゲノム的には、まだブラックボックスな部分が多いという感じですね。
ただ、フナのミトコンドリアを使って系統樹を書くと、日本の系統とユーラシアの系統でまず大きく分かれるんですけど。それぞれの系統の中で2倍体と3倍体がどちらにも見られ、塩基配列での明瞭な違いが見出せないことは分かっています。

メスだけの方が個体数増加率が高い?

有性生殖することには、コストとベネフィットがあるんですよ。
有性生殖だと、組換えと言うのですが、相同染色体の間で入れ換えることによってゲノムの情報をシャッフルする。それによって集団から生存や子孫を残すのに不利な変異が排除されるとか、あるいは、有利な変異の組み合わせが増えていくみたいなことが起こっていきます。それが有性生殖の利点、ベネフィットだと言われています。
コストは増殖効率が悪い点です。クローン繁殖の場合ってメスのみでOKですよね。でもオスとメスがいる生き物だと、例えばオスとメスが、人だったら男性と女性の比率は、一対一ですよね。オスがいなくなると、メスのみだと個体数の増加速度が2倍大きくなるんです。わかりますか?

んん?わからない…。

オスは精子をつくる、受精させるというのはあるんですけど、その次の世代で何匹子どもが生まれてくるかというところに関しては、メスの数に大きく依存している。そこで、もしそれが全個体がメスのみでいけるんだったら、子どもを産める数が2倍多くなるんです。

オスが1でもメスが10いたら、10人お母さんになれるから、お母さんの数に依存するというのはわかるんですけど。。。

例えば20匹からスタートすると仮定すると、有性生殖の場合だと、オスとメスが10匹と10匹みたいなイメージになりますよね。そこから子どもを産めるのは10匹。クローン繁殖の場合は、メス20匹、オス0匹になって、子どもを産めるメスは20匹。同じ20匹でも、10と20の違いになるんです。そのメスがどちらも同じ数だけ、例えば10匹の子を産めるとすると…次世代は、100匹と200匹。個体数にかなり差がついてしまいますよね。これが、有性生殖のコストです。
自然界では真核生物の大多数は有性生殖をしているのですが、有性生殖のコストって、単純計算だとかなり大きく感じてしまいますよね。実際のところ、理論研究でも「なぜ有性生殖をする生物が多数を占めているのか?」をコストベネフィットで示すのは難しいんです。

クローン繁殖の子供の数は有性生殖の2倍になるということの説明図

そもそも、なぜフナの研究?

あまり知らないので変な質問なんですけど、フナの研究ををやっている人たちって他にいるんですか?

今、野外のフナの進化・生態学的な研究をやっている人は、日本で僕を含めても5人いくかどうかくらいですかね。日本以外だと精力的に取り組んでいる研究室が、中国で1つ、2つくらいかな。

そもそも、なんでフナなんですか?

「なぜ生き物が有性生殖をするか」というそれこそチャールズ・ダーウィンの頃からの長年の問いがあるんです。これをフナから切り込んで、答えを出せないか、ということを考えています。
元々僕、生き物の繁殖に興味があったんです。大学で動物生態学研究室というところにいたんです。そこで、魚の研究をやりたかったので、繁殖で面白いところだとフナだろうとなったという感じですね。

意外とストレート。

そうですね。魚、特に淡水魚で繁殖の研究となると、タナゴという色が綺麗で、貝とかに産卵をするちょっと変わったやつがいるんですけど、それも結構面白いんですけどね。ちょうどそのときの指導教員の先生とも話して、「やっぱ混沌とした生き物が面白いんじゃないか?」という話になり、フナになりましたね。

今はどういうプロジェクトを進めているんですか?

クローン繁殖のメカニズムを遺伝子レベルで解明しようとしています。全ゲノム関連解析という疾患にかかわる遺伝子の探索などに使われている手法を応用しています。ゲノム全体を網羅的に調べて、なんらかの形質、例えばヒトの研究であれば病気の罹患率などと、変異の間で非常に相関が高いものを探すんです。それと似た考え方で、フナのグループの中に有性型とクローン型の多型があるんじゃなないか、とみなして、全ゲノム関連解析をして有性型かクローン型と強く相関する変異を含む遺伝子を探しています。驚くことにクローン繁殖に関連しそうな遺伝子が取れてきているんですよ。

どう発展していくの?

クローン繁殖という非常に興味深い形質なので、その原因が分かると色々と夢はひろがりますね。遺伝子の情報が出てきているので、ちょっと視点を変えて、進化の制約、つまり有性生殖の生き物がクローン繁殖に進化、あるいは逆にクローン繁殖をする生き物が有性生殖に進化できるのか、それがどれくらい難しいのかというのに着目をして研究をしています。具体的には、フナがクローン繁殖になるときにどれくらいの遺伝子が変わったらクローン繁殖になれるのか、というのを見ていきたいなと。

それは遺伝子発現レベル的にってこと?

遺伝子発現だったり、タンパク質の構造そのものの変化だったりしますね。そういうところをゲノムの解析から調べていて、明らかになってきた有性生殖とクローン繁殖の違いを、細胞学的なアプローチからさらに検証していこうとしています。

「有性・無性生殖を決める遺伝子があるのじゃないか」という研究者の似顔絵

編集後記

まさか、フナがこんなに奥深いとは…。しかもほぼ漁師のような研究者…。なかなか面白かった。たしかに、クラウンフィッシュのように性転換する動物は少なからずいるわけで、オスメスというのはどういう遺伝的な仕組みで決まっているんでしょうね。この研究が進んで、人間にもオスがいらないという結論になったらイヤだけど。