木川隆則チームリーダー(細胞構造生物学研究チーム チームリーダー)

(インタビュー当時)

✕ 兵庫県立星陵高等学校 生命科学類型 2年生

近年、エネルギーを得る方法に注目が集まっています。エネルギーを得る時には、環境への影響の少なさや人々への安全、さらにはエネルギーを効率よく安定して手に入れられるという点が重要です。二酸化炭素を出す火力発電が多い日本では、二酸化炭素を排出しないという観点が重要視されていると感じます。中学生の時に自由研究で風力発電について研究したメンバーがいて、環境への負荷なくエネルギーを得る方法について興味を持っていました。微生物(生体)からエネルギーを得ることができることを新聞で知り驚愕していたところ、理化学研究所で人の汗からエネルギーを取り出す研究をしていると聞き、インタビューしました。

木川チームリーダーの顔写真
木川隆則(きがわ・たかのり)東京都出身。東京大学大学院理学系研究科で博士号取得後、理研へ。研究では細胞の中にある生命分子の形や動きから生命現象を知り新たなテクノロジーを生みだすことに情熱を注ぐ一方、休日にはモータースポーツや美術館巡りを楽しむ。

生体からエネルギーを取り出すメリットはなんですか。

今では携帯電話に入っているバッテリーなどで一日過ごせてしまいますので、あまり発電そのものに意味を感じないかもしれません。でも我々が普段生活している時はバッテリーを持ち歩いていたらいいかもしれませんが、山奥など電池を装備しにくい環境とか、なるべく軽量でいたい極限な環境の時には十分な量のモバイルバッテリーを持っていけませんね。そういう電池に頼らずにエネルギーを作りたい時に生体からエネルギーを得られるものを持っていれば、リチウムイオンバッテリーを持つ必要がなくなります。我々が出したエネルギーを捨ててしまわずに、それを電気に変えられるという考えもありますね。

汗からどのくらいのエネルギーが取り出せるのでしょうか。

Bluetoothを飛ばすぐらいの発電ならできるというシミュレーションがされています。だから、アスリートが着ているユニフォームの中からBluetoothを飛ばして、リモートでアスリートの状態を確認するようなことをコンセプトとして提案して、機能することを示した人はいます。

アスリートが運動するときの状態をリモートで検出したくても、バッテリーなどの重量のあるものを持たせているとアスリートの運動に支障が出てしまいます。しかし、汗から発電するのであれば軽量の小規模なデバイスでできるので、アスリートへの余計な負荷を減らすことができます。

また、汗で発電する場合は、エネルギーというよりはセンシングの観点が強いですね。汗が出てくるということは、ストレスがかかった、運動したなどの生体現象が反映されているので、汗の量や汗に含まれるものの量を検出して、ストレスがかかっているかどうかを検出できるという、発電以外のメリットがあります。

生体からエネルギーを取り出すときに、工夫していることはありますか。

エネルギーを取り出すときにプラスチックや金属ではなくて、タンパク質を利用することです。プラスチックとか金属などは分解されませんが、全部タンパク質を利用すれば、土の中の細菌がそれを分解してちゃんと自然に還元してくれます。そうすれば終わった後にそれを捨てたとしても環境に優しいし、それを装備する人にも優しい。例えば、エベレストに登って発電デバイスを捨てないといけないという時にも、リチウムイオン電池だと自然環境を破壊してしまいますが、タンパク質でできたデバイスならば捨てたとしても、いずれそこら辺にいるものが分解してくれるので地球に優しいというメリットがあります。

汗の量は人それぞれ異なりますが、安定してエネルギーを得るために必要な技術はありますか?

一番簡単なのは少ない汗の量で多くのエネルギーを得られるような効率のよい技術を作ることです。そのために必要なものの一つは変換効率の良い酵素を見つけることですね。酵素はタンパク質から出来たものですが、タンパク質はアミノ酸がつながったもので、それは遺伝子にどういうアミノ酸を使うかが書き込まれています。例えば、乳酸を変換して電子を取るという作業は同じでも、大腸菌から取ってきた遺伝子とヒトから取ってきた遺伝子では、アミノ酸の配列には違いがあります。世の中には数多くの生物がいて、さまざまな生物からさまざまな遺伝子を取り出すと、すごく効率の良いものと効率の悪いものがあります。だから同じ乳酸を変換する酵素でも非常に効率の良い酵素、タンパク質を探し出すことが重要です。

もう一つは人工的に遺伝子を少し変えて、さらに効率の良い酵素を作り出すことですね。組換えDNA技術は確立されていて、自分が望むようにデザインしたアミノ酸配列を持つタンパク質を人工的に作ることが可能です。

だから、今はこういったいろんな技術をうまく組み合わせて、例えば乳酸から電子を取り出すのに一番効率のいいタンパク質のアミノ酸配列を見い出そうとしています。

生体からエネルギーを取り出す技術は、現在どのように活用されているのでしょうか。

現在技術開発は進んでいますが、基礎研究から応用研究に進みつつある段階です。まだ一般の方が目にするような形で、なにかに製品化されたり、デバイスになったりという状態ではないです。

この技術をどのように世の中に広めていきたいと思っていますか。

汗からエネルギーを得ることのメリットが活きる局面で使えるデバイスとして、いろいろな人が使えるようになればいいと思います。これからは個人のいろいろな健康情報などをリアルタイムで負担なく取っていくことが必要になってきます。ベッドで寝ているなら有線でいろいろなセンサーをつけたらいいですが、動いている人にそんなことはできません。最近は健康状態を測れる腕時計がありますが、それは手首の一部でしか計測できず、体の汗の量などを測ることができません。この技術をうまく活用して、体の負荷なく、環境の負荷なく全身の情報をセンシングできるようになっていったらいいと思います。

リチウムイオン電池を生み出した国ということもあり、日本は電池といわれるとどうしても無機物のものをイメージしがちです。無機物の発電という概念が強くて、生体から発電するということがなかなか受け入れられませんが、もう少し有機物をうまく使ったものも一般化するようになればいいなと思います。

インタビューを終えて

汗からエネルギーを得るという技術の基礎知識やこの技術のメリット、この技術の現在の課題などについて聞くことができたので、とても有意義なインタビューになったと思います。人にも環境にも優しいエネルギーの取り出し方なのに、まだ実用化されるほど技術が進んでいないということがとても残念に感じました。日本は生体からエネルギーを取り出そうということに消極的だといいますが、実用化されるほどの高い技術と周りに理解されるようなアプローチの仕方があれば、それも変えられるのではないかと思いました。

取材・執筆

兵庫県立星陵高等学校 生命科学類型 2年生
永峯 陽輝、森木 幹太、村井 瞭太、谷本 凪、鈴木 晶