2019年3月から2019年6月のプレスリリースと論文ニュースからご紹介します。

触れずにヌメリをはかる

理研プレスリリース 2019年6月11日

集積バイオデバイス研究チームの田中信行研究員、田中陽チームリーダーらは、流しに発生する「ヌメリ」など、微生物の作用により物体表面に発生するバイオフィルムの有無を「水とのなじみやすさ」を指標とすることで、触れずに簡便に評価できる手法を開発しました。

Tanaka N, Kogo T, Hirai N, et al. Sci Rep 9, 8070 (2019)

マイクロ心臓を作る

理研プレスリリース 2019年5月29日

心臓は心筋細胞という細胞が集まってできています。

田中陽チームリーダー、田中信行研究員(集積バイオデバイス研究チーム)らは微細加工技術を使って0.2mm間隔で立つシリコーンゴムの微細な柱を作成し、その上で心筋細胞を培養しました。すると細胞同士が自律的につながって、柱と柱を結ぶ構造(心筋ブリッジ)ができました。また心筋ブリッジの拍動によって、2本の柱をたわませて、間の空間にある液体を押し出すポンプのような機能を実現しました(トップ画像)。

Tanaka N, Yamashita T, Yalikun Y, et al. Sensor Actuat B: Chem 293. 256-264 (2019)

ヒトiPS細胞由来網膜色素上皮細胞懸濁液の保存に最適な温度は16℃

BDRニュース 2019年5月22日

iPS細胞を用いた移植治療を行うためには、培養した細胞を培養室から手術室に輸送することが必要です。

北畑将平大学院生リサーチ・アソシエイト、田中佑治客員研究員、髙橋政代プロジェクトリーダー(網膜再生医療研究開発プロジェクト)らは細胞を凍らせずに保存・輸送するために最適な温度条件を明らかにしました。

Kitahata S, Tanaka Y, Hori K, et al. Sci Rep 9, 2891 (2019)

美しいパターン形成を、ほ乳類細胞上で再構成する

BDRニュース 2019年5月21日

熱帯魚の縞模様、キリンの網目模様、ヒョウの斑点模様。生物はこうした模様をどのように作り出すのでしょうか?生物の模様は活性化物質と阻害物質の相互作用と拡散によって自律的に生じるという仮説が提唱されてきましたが、これを実験的に検証することは困難でした。

関根亮二研究員と戎家美紀ユニットリーダー(研究当時、再構成生物学研究ユニット)、柴田達夫チームリーダー(フィジカルバイオロジー研究チーム)らは遺伝子工学的に活性化-阻害遺伝子回路を組み込んだ哺乳類の細胞をシャーレの中で培養し、自律的に模様を形成させることに成功しました。

Sekine R, Shibata T, Ebisuya M. Nat Commun 9, 5456 (2018)

反応拡散パターン

ウイルスが宿主細胞の翻訳装置を乗っ取る仕組み

理研プレスリリース 2019年5月14日

ウイルスはそれ自身では増えることはできませんが、ヒトの細胞に侵入すると、細胞が持っているタンパク質合成のための分子機械(翻訳装置)を利用して、増えていきます。

翻訳構造解析研究チームの伊藤拓宏チームリーダー、岩崎わかな専任研究員、タンパク質機能・構造研究チームの横山武司研究員らはC型肝炎ウイルスと細胞の翻訳装置との相互作用を調べたところ、ウイルスは単に空いている翻訳装置を利用しているのではなく、すでにヒトのタンパク質を合成している翻訳装置を乗っ取って、自身のタンパク質を優先的に作らせていることが分かりました。ウイルスと翻訳装置との相互作用を阻害する薬剤を開発できれば有効な抗ウイルス薬になる可能性があります。

Yokoyama T, Machida K, Iwasaki W, et al. Mol Cell (2019)

ストレスでタンパク質合成が止まる仕組み

理研プレスリリース 2019年5月3日

私たちの体の中の細胞は、生きるために必要なタンパク質をとめどなく合成しています。その材料であるアミノ酸の生合成まで含めると費やすエネルギーは膨大です。一方、栄養不足でアミノ酸が足りない状態に陥った時、不完全なタンパク質が作られないように、細胞はタンパク質合成の開始を抑制することが知られていました。

柏木一宏研究員、伊藤拓宏チームリーダー(翻訳構造解析研究チーム)らはタンパク質合成の開始に関わる分子複合体の構造解析を行い、ストレス下で起こる立体構造の変化が引き金となって、タンパク質合成の抑制が起こることを明らかにしました。

Kashiwagi K, Yokoyama T, Nishimoto M, et al. Science 364, 495-499 (2019)

リン酸化eIF2Bの効果

昆虫の外骨格にナノサイズの穴が開く仕組み

理研プレスリリース 2019年4月19日

昆虫の触角を包む殻にはニオイ分子を捉えるための小さな穴(ナノポア)が開いています。こうした微細な構造を生物はどのように作り出しているのでしょうか?

安藤俊哉研究員、林茂生チームリーダー(形態形成シグナル研究チーム)、米村重信チームリーダー(超微形態研究チーム)らはショウジョウバエのさなぎを電子顕微鏡で観察し、触角を包む殻がまず小さな断片の集まりとして形成され、それらがつなぎ合わされる時、接合点にナノポアが生じることを突き止めました。

Ando T, Sekine S, Inagaki S, et al. Curr Biol 29, 1512-1520.e6 (2019)

ショウジョウバエ外骨格のナノポア

ヒトiPS細胞由来網膜が移植後長期生着し、機能する可能性をサルで確認

BDRニュース 2019年3月29日

患者自身の細胞から誘導したiPS細胞を組織に分化させ、疾患部位に移植する再生医療の研究が進められています。しかし、実際の治療に使うためには、移植した組織が疾患部位に生着し、成熟し、機能するかどうかの検討が必要です。

涂宏雅訪問研究員、渡邊健人研修生、万代道子副プロジェクトリーダー、髙橋政代プロジェクトリーダー(網膜再生医療開発プロジェクト)らはヒトiPS細胞から分化誘導して得られた網膜組織を視覚疾患モデルサルに移植すると、組織は最大2年間生着、成熟し、光刺激に対して応答する可能性を示しました。

Tu HY, Watanabe T, Shirai H, et al. EBioMedicine 39, 562-574 (2019)

ヒト網膜細胞のサルへの生着

「ゆらぎの定理」から、細胞内での軸索輸送にかかる力を測定できる

BDRニュース 2019年3月20日

神経細胞の中には宅配トラックのような役割をする分子モーターがあり、積荷を引っ張りながら神経線維の中を走っています。その動く姿を高解像度の光学顕微鏡によって捉えてきた岡田康志チームリーダー(細胞極性統御研究チーム)らは、さらに、分子モーターが積荷を引っ張る時の力の大きさを測定する手法も開発しました。

Hayashi K, Tsuchizawa Y, Iwaki M, Okada Y. Mol Biol Cell (2018)