今回は金城さん。インタビュー場所として呼ばれたところは研究室。顕微鏡を作ったりしている、という話は聞いていたものの、入るといきなりむき出しのレーザーやレンズなど…。なんか、いつもとは違う趣…。

顕微鏡を作る?

うわ、これすごいですね。何ですか?

あ、これはレーザーです。

レーザーって作れるんだ…。

そりゃ人間の作るもんですからね。売っているものの外装を取ると、だいたいこんな感じですよ。
要は共振器になっていて、この辺の鏡で光をぐるぐる回して増幅するんです。あ、触ると危ないですよ。まぁ、僕の作ではないんですけど。

あ、そうなんだ(しまった、違うのか…)。じゃぁ、金城作は?

か)こっちの顕微鏡です。これは第2高調波という原理を使った顕微鏡です。

…(いきなり分からん)。

光の周波数が倍になって出てくるんで、第2高調波。英語だとSecond Harmonic Generationといって、略してSHGとも言います。

なんで倍になるんですか?

物質と光の相互作用で出てきます。厳密には違うんですけど、音波でいうとオクターブ上光も波の性質を持っているので、波の理屈で説明できる部分もある。オクターブは、周波数が倍。波長は半分になる。ちなみに、時報で有名な「ピ・ピ・ピ・ポーン」は、440Hzが3回、最後が880HzというA(ラ)の音がなっている。が出てくる感じですかね。このSHGが起きる物質というのは限られていて、生体物質でいうと、細胞骨格、微小管、ミオシン、コラーゲンとか筋肉ですね。植物だとセルロースこの辺りの名前はご自身で調べてみてください…。とか繊維系ですね。あとはタンパク質の結晶も見えます。

尿管結石とか。

はははは。多分、見えると思いますよ。
そういうSHGを出す物質であれば、ラベルフリー多くの場合は、蛍光物質や放射性同位体を用いて目的の分子などを標識(ラベル)することが多い。
顕微鏡の写真で、赤、緑、青など鮮やかな画像はそれぞれの蛍光物質の波長に近い色を再現して着色している。
で観察することができます。

ん?えーっと、それって、そういう物質があると第2高調波が出てくるってことですか?それって、ミオシンとかコラーゲンとかそういうレベルで見分けがつくんですか?

SHGは構造をよく反映するんです。簡単に言ってしまうとSHGは偏光なので、入射するレーザーに偏光をかけて偏光角偏光顕微鏡の構造は、光源、偏光子(ポラライザー)、解析子(アナライザー)、検出器とレンズ・ミラー系で構成されている。ポラライザーとアナライザーは回転できるようになっていることが多く、角度が合っていないと光が通らない、あるいはそうではないケースなどがあり、物質の特性を反映する。鉱物などの結晶系でよく使われる。鉱物のキラキラした画像は、偏光顕微鏡の画像。
メガネの偏光グラスも同じ原理。
をぐるぐる回したり、検出側でもアナライザーを入れて解析してやったりすると、構造によって偏光強度が変わってくるんです。それを分子ごとに見てやることができます。

うーん。

偏光板をぐるぐる回してやると、綺麗なサインカーブ高校のときに習うアレ。サイン、コサイン、タンジェント。綺麗な波を描く。360°で一周する。偏光板をぐるっと360°回すので、強いところと弱いところがサインカーブを描く。になるんで、そのパターンが分子や構造によって変わってくるんです。

結構時間かかるんです…
あ、解説したポスターがこれです。

あ、なんだ。あるじゃん。

それぞれ微小管、神経、細胞、あとは、細胞分裂時のスピンドルですね。3つの状態が写っていて、それぞれ細胞分裂の最初の方、中間、最後の方ですね。僕は生物学者じゃないので、実はよく分かってないんですけど。細胞の中でもこんな感じで見えます。

こっちの図は、微小管を取り出して1本ずつをラベルフリーで観察したものです。

ラベルフリーで、ですか?すごいですね?

これを偏光依存性を見てやると、微小管には構造が何種類かあって、そのパターンの違いが見えるわけです。それで、微小管の中のチューブリンの角度が微妙に違うというのが分かってきた。結構前の仕事ですけどね。6年かかってようやく論文になりました。

やっぱそのくらい時間がかかるんですねぇ…。

これは結構大変で。特に、一本の微小管をSHGで観察するということ自体が大変でした。

大変だったポイントは?

まず標識しないので明るくするということ自体ができないんです。それで、最初はバックグラウンドノイズがあってよく見えなかったんですけど、どうやら微小管を貼り付けているガラスからノイズが出ているというのが分かったので、普通のガラスをやめました。

ガラスを?

そうなんです。普通のガラスは、透明度や強度を調整するために、不純物が入っているんですよね。それを石英ガラスガラスは鉱物はSiO2をベースに様々な鉱物の混合物。石英は純粋なSiO2。水晶、クオーツ(quartz)とも。に変えることでノイズを抑えることができて、ようやく画像が撮れた、という感じです。

物理量から特性が分かる

しかし、式の意味がさっぱり分からんとです。

χ(カイ)が、SHGの特性を表していて、Eが電場です。非線形光学レーザーの出現によって発展した分野。強い光を与えた場合に「線形」では記述できない光学的な現象を扱う分野。なんですけど、2個のフォトンが一つになって、その時にエネルギーが倍になるので、その時波長が半分になる、という意味の式ですね。

分かったような、分からんような…(汗

最近はさらに進んでいて、もっと狭い範囲で観察してやれば、構造の時間変化なんかも追跡できます。

膜タンパク細胞膜は脂質でできているが、その中に様々なタンパク質が埋め込まれている。たとえば、受容体。細胞外の分子を受け取って、細胞内に物質を入れたり、シグナルを細胞内に伝えたりする。創薬のターゲットになることも多い。とかできたりするんですか?

膜タンパクのような特定のものは難しいと思いますけど、細胞膜は見えます。ラベルフリーは難しいんですけど、細胞膜に差し込んでSHGを増強してくれるような分子もあります。そうすると膜電位が測れたりします。

お、マジっすか?

そうすると、電極刺したりパッチクランプ細胞内外の電位を測る手法。細胞膜を切り出して、電極を刺して電位を測る。特に神経生理学で使われることが多い。やったりしなくてよくなります。

シグナルが変わるんですか?

膜電位というのは膜の内外の電位差で決まるわけですが、この電位差が増減するとSHGの強度が変わるんです。さっきの式のχ(カイ)が変わります。

それって生きてる細胞でできるんですか?

できますよ。最近の流行りはオール・オプティカル(All Optical)ですね。全部、光でやっちゃおうという。

光ピンセットとかも?光を使って分子を動かす技術。

そうです。もちろんいろんなモダリティ簡単に言えば、方式、手法。があってもいいのですが、光で操作して、光で観察して、という全部を光でやる。光だと細胞の中まで見えるし、いちいちダイセクションしなくてよいというメリットがあります。

でも、この金城さんの研究って、実はあまり知られてないですよね。

あまり目立ちたくないんですよ(笑
というのは、さておき。そもそもこの研究とか手法とかが生物分野で知られていないかもしれないですね。特定の分子が見ることができるということは知っている人はいるので、使われていないわけではないですけど、たとえば膜電位が測れるとか構造が見えるというのは、あまり知られていないでしょうね。

ラベルフリーってのがいいですよね。

そうなんですよ。でも、僕らもどうやったら生物学の研究に活用できるのか、というのは考えています。
生物学の人たちにお話をすると、結構「やってみたい」というお話はいただきますし、実際に一緒に測定してみたりしてます。

生物学のことはよく分かりません…

そもそもは、何をやってたんですか?

固体物理で、SHGです。

そもそも、なんだ。

そうなんです。だから、生物学のことがよく分かってない、って言ったじゃないですか…。

言ってましたね。

簡単に言ってしまうと固体物理で、マテリアルサイエンスですね。物質の特性をSHGを使って解析していました。

ほう。

固体物理は主に結晶をやる学問なんですけど、強誘電体という物質があって。で、それはもともと分極しているんです。誘電体というのは普通電場かけないと分極しないんですけど、これはもともと分極してる。

分極ってのは?

電気のプラスとマイナスが別れるってことです。簡単に言ってしまうと絶縁体です。
極性のあるものというのは、繊維とかと一緒でSHGを出す物質なんです。そうするとSHGで見てやるとその物質の特性が分かる、と。普通、結晶物理ってX線とかを使って結晶の構造を解析する際にX線を当てて解析する。大型ものにSPring8(調べてね)があり、高解像度に結晶構造を調べることができる。調べますけど、そうすると原子レベルとか数nm(ナノメートル)とかのスケールはわかるんだけど、もう少しメゾスコピック中間的なスケール。ミクロとマクロの間という意味で、Messoというラテン語から。音楽用語のMezzo Pianoのメゾと同じ。ただ、扱っているスケールによって、ミクロもマクロもメゾもスケール感が変わるので要注意。なスケールのことは光の波長で見た方が分かりやすいことがあるんで、そういう研究をしてて、そのための顕微鏡開発をして、観察して、同じように偏光とか見て、いろんなパターンを見てた。
単結晶って肉眼で見ると透明な均一な感じですけど、SHGでみると均一じゃないってのが分かるんです。

はぁ。

とにかく、そういうことをやってたんです。

流れが変わってきている

なるほど。ところで最近生物学も流れが変わってきましたね(分からんから話題を変える)。

今BDRでやっているDECODEBDRのセンタープロジェクト。なんかは、どちらかというと概念論な感じがします。
そうですね。森本さんたちがやっているオルガノイド森本さんの記事を参照ください。は「モノ」があるんですけど、DECODEは「概念」の話かもしれないですね。同時にデータドリブンなんですよね。

と、言うと?

たとえばデータ解析をする時にクラスタリングという手法を使うことがあるんですけど、あれって結構、恣意的なんですよ。
クラスタリングしてクラスターができて、自分の分かっていることをベースにそれぞれにラベルを貼っていきます。自分の理解と違うものが出てくると、クラスタリングが良くないということでやり直したりする。
でもそれはもしかしたら、自分たちが知らない、新しい何かかもしれない。

自分たちが見てきたものが正解と思っていると見落としてしまうかもしれないですね。

分かっているものを分類するのに機械学習はいらないんです。
人間の分類が恣意的なので、人間の分類を基準にすると制限がでる。もっと分からないことが膨大にあるはずなのに、分かっていることしか見てない。全体のなかのこのくらいしか見ていないかもしれない。

思考に枠ができてしまうということですかね。

そのクラスターは何らかの機能に対応しているはずなんです。そこから、元の情報に戻って、対応づけを見直してみる。そうすると、これまで全く知らなかった分類とか出てくるんです。その時に、むりやり知っているラベルを貼るんじゃなくて、新たなラベルを作りましょう、ということですね。
分からない、これまで知らなかったものだ、と認識して、そこを起点にして新しい研究を始めて行くということが今後大事になるんじゃないかと思うんですよ。

分からんことだらけになりそうですね。

でも、そこから新しい研究を始めたらいいじゃないですか。人間が一つずつやっているよりも研究対象が一気に膨大に増えますよ。

各分野の専門家が集まって

SHGは今度どうしていくんですか?

あ、今は違うことをやってるんです。

おい!

今は、ライトシート顕微鏡光源を薄くシート状に絞るので「ライトシート」。超解像顕微鏡の一種。を使って、マウスの初期胚の細胞を一つ一つトラッキングするというのをやっています。

あ、それでライトシート作ってるんだ!

そうです。マウスの初期胚を見るための専用機として作っています。生物学の専門家と情報処理の専門家とチームを組んでやっています。

ライトシートって作れるもんなんですね…(さっきもレーザーで聞いたような…)。

作れますよ。光学系というのは、レンズとミラーの組み合わせなので、実はそんなに難しくないんです。

そういうもんですか…。

今回のプロジェクトで大事なことがいくつかありますが、その一つに各分野の専門家が集まっていることがあります。たとえば、僕は生物学は分からないけど顕微鏡は作れる。その逆もあるわけです。あるいは、顕微鏡で撮像するだけできれいな画像が取れるわけでもない。

そうなんですね。

顕微鏡で完璧な画像を撮るのが難しいので、例えば、撮影方法を工夫したりとか、あとでデコンボリューション画像からボケなどを除いていく計算的手法。したりとかするんですよね。そういうことができないと、全細胞追跡のような複雑なことは難しい。
なので、最近のライトシートとかの顕微鏡の論文は、情報系の人ががっつり入っているのが多いですね。

そういう強みのコンビネーションで研究が進んでいくのっていいですね。

これからは、1人で、1研究室で、というのが難しくなってきているんじゃないですかね。今のプロジェクトは各領域1人ずつなので、しんどいですけどね。
そういうやり方って今まであまりなかったかもしれないですね。各分野の専門家を集めて、その全体の統括をするまとめ役というのがいて。

ちゃんと役割分担ができていてチーム戦になっていて、ここまでできているのが美しいですよね。
いろいろ楽しみですね。どうも、ありがとうございました。

編集後記

実はレンズとミラーをいじっていた時期があるので、大変懐かしくお話を伺いました。けど、ライトシート作れるまでは極めなかったなー、と思うと研究者の皆さんのすごさを思い知らされました。同時に、そんなに簡単に成果(論文)にはならないこと、いろいろ新しい流れがきていること。そんなことをしみじみ感じるインタビューでした。