工樂 樹洋 (分子配列比較解析チーム チームリーダー)

✕ 兵庫県立小野高等学校 生物部

私たちは今、スミレなどのDNAの塩基配列について研究を進めています。今回のインタビューでは研究者に直接話を聞けるということで、ゲノム研究やDNAに関する研究をしている方に専門的なお話を聞き、自分たちの研究のヒントにしようと考えました。そこでサメなど海洋生物のゲノム研究を行っている工樂樹洋さんにお話を伺いました。

工樂チームリーダー
工樂樹洋(くらく・しげひろ)奈良市出身。京都大学にて博士号(理学)取得。理研研究員やドイツ南部にあるコンスタンツ大学の教員を経て、2012年より理研神戸キャンパスにて、進化の時間軸とゲノムワイドな視野に基づく研究アプローチを広範な生命科学現場へと普及すべく研究を行っている。研究のモットーは、「流行りものに惑わされず、誰もやらない重要な研究を」。

どんな研究をしていますか?

皆さんもDNAの研究を行っているということですので、今日は特にそれに近い部分の話をしましょう。私は幅広い研究を行っていますが、特に最近ではサメに興味があります。サメの仲間やヒトなどのゲノムDNAの塩基配列情報の研究を行っています。実験室で実験をしながら配列を読み取り、系統樹に加え、同時に遺伝子の働きを種の間で比べるためのデータ解析もしています。いろいろな情報を集め、このようなゲノムの情報がヒトをヒトたらしめているということを納得したいという希望があります。細胞など生きた材料を扱うのと違って、DNAデータベースから情報を取ってくることにより家でも研究を進めることができるので、今の時代ならではの研究だと思います。具体的には、ミトコンドリアの一部や核のDNAを増幅して、情報を読み取って、理解してなぜそのような配列なのか、他の生物と何が違うのかを考えています。

ゲノムの研究をして何が分かりますか?

ゲノムというのは生命の設計図そのものです。例えばヒトならば、睡眠や肥満、そして寿命のメカニズムを定めるなど、さまざまな側面があります。私はヒト以外の生物を調べることが多いのですが、生物同士で比較をすることにより、ゲノムのどの領域が古い時代から受け継がれているものか、どの領域が新しく成立したのかという領域ごとの成立の歴史が分かります。ヒトゲノムだけを調べても、どの部分が古いか新しいかはわからないので、ヒトと他の生物とを比較することを意識しています。

ゲノムの研究は何かに役立てることができますか?

病気の仕組みを調べたり薬を作ったりしているわけではありませんので、直接社会の役に立つわけではないのですが、世界中の遺伝子を調べている研究者の理解の助けになると思います。自分一人でできることには限りがありますが、さまざまな遺伝子を研究している多くの人の土台として広く役に立つことができるとしたら、大きなやりがいです。

DNA抽出や系統解析をするとき、困ることはありますか?

DNA以外の物質が入り込んでいると、そのあとの反応で邪魔をすることがあります。例えば多糖類を多く含むサンプルからDNAを取り出すとき、タンパク質を分解する酵素を入れてタンパク質を壊しても、多糖類は分解されないので残留して高純度のDNAを抽出できず配列の読み取り精度に影響を及ぼすことがあります。海産のものや植物の時にそういう混入物が多いように思います。その他にも、いろいろな生物を相手していると初めての問題に直面することもあります。

サメのゲノムを研究、比較してどんなことが分かりましたか?

ゲノムの情報を読み取るのは一般に思われているより難しく、例えばヒトゲノムでさえ端から端まで、100%は読み取られていません。したがって、ヒト以外ではゲノム情報の読み取りはもっと不完全であるという想像がつくと思います。そんな中でも実際分かったこととして、ヒトゲノムに含まれる遺伝子とサメのゲノムに含まれる遺伝子では顔ぶれに大きな違いはない、ということが挙げられます。
バソプレシンなどホルモンの内分泌システム(脳から指令が出て、体の状態を整える、異常を感知する仕組み)を支える遺伝子がヒトとサメでもかなり共通していたことから、そのシステムが脊椎動物の進化の早い段階で確立されていたということが分かりました。

サメのサンプリングはどのように行っていますか?

私自身が獲りに行くよりも、得意な人に任せることのほうが多いです。水族館で魚の世話をする人や血を採る獣医さんとのチームプレーで研究材料が確保できたら、私たちがその材料を分析するという役割です。私たちが得意なことを考えると、DNA情報のコンピューター解析で他の人には真似できない成果を出せるかに集中するほうが大事かもしれないと思うことが多いです。自分だけだと奥に進めないような研究でも、分担して得意なところを持ち寄ってやることで、世界一の結果を出そうという心持ちで研究しています。

インタビューを終えて

新型コロナウイルスの影響で残念ながら研究室を実際に訪問することはできませんでしたが、工樂さんは私たちが疑問に思っていたことに詳しく答えていただきました。どのような方法でDNAを抽出・解析するか、研究者としての心持ちなども教えていただきました。さらに私たちの研究のアドバイスや、DNAに関することの調べ方を、Zoomを通して実演していただきました。最後にはカメラを持って研究室を歩いて、様子を見せていただけたので、研究室の設備や、一切研究に妥協しないような雰囲気が分かりました。いろいろなことを聞いた中で、「他の人たちと協力して、研究を成功させる」という言葉は、とても興味深かったです。今回聞いたことを自分たちの研究に活かせるようにしていきたいです。

取材・執筆

兵庫県立小野高等学校 生物部
谷勝 壮、小林 勇翔、藤原 佑吾、長田 悠生、川嶋 英嗣