2021年7月から2021年10月までのプレスリリースと論文ニュースからご紹介します。

NMR装置

電気抵抗のない高温超電導接合で2年間の永久電流運転に世界で初めて成功

2021年9月24日

非常に低い温度に冷やされ電気抵抗がゼロとなり超電導状態にあるコイルでは外部からの電流供給なしで電気が流れ続けます。これにより発生する強力な磁場を利用したのが核磁気共鳴(NMR)装置です。近年、高温超電導線材の超電導接合(高温超電導接合)を使った次世代超高磁場NMR装置の実現が期待されています。柳澤吉紀ユニットリーダー(機能性超高磁場マグネット技術研究ユニット)、山崎俊夫ユニットリーダー(構造NMR技術研究ユニット)らは、2018年に、高温超電導接合を実装したNMR装置の開発に世界で初めて成功しました。さらに今回、400メガヘルツ(MHz)の磁場で約2年間絶え間なく永久電流運転し、磁場の精密測定を続け、高温超電導接合が長期間にわたって安定的な永久電流を維持できることをはじめて実証しました。続きを読む

Yanagisawa Y, Piao R, Suetomi Y, et al. Supercond. Sci. Technol. 34, 115006 (2021)


生物の相性性の対比図

イソギンチャクの体の構造に“相称性の二刀流”を発見

2021年9月8日

サフィエ・エスラ・サルペル訪問研究員、平井珠美テクニカルスタッフ、倉谷滋チームリーダー(形態進化研究チーム)らは、タテジマイソギンチャクに左右相称の個体と放射相称の個体が混在することを発見し、両者の体づくりを共通の仕組みで説明する数理モデルを提案しました。本研究により、現生のほとんどの動物に共通する左右相称性と、進化において祖先的な動物である刺胞動物門(クラゲ、イソギンチャクなど)で見られる放射相称性の体づくりの仕組みの関係や、相称性がどのように進化してきたかについての理解が深まることが期待できます。 続きを読む

Sarper SE, Hirai T, Matsuyama T, et al. Zoological Lett 7, 12 (2021)


卵子の染色体の蛍光写真

精子DNAを捨てないで

2021年9月2日

受精卵が正常に発生するには母方と父方からゲノムDNAを1セットずつ継承し、2倍体を維持することが必須であり、それが破綻すると流産や出生異常につながります。しかし哺乳類の場合、受精直後の受精卵は一過的にゲノムを3セット保持する3倍体(母方2ゲノム+父方1ゲノム)となることが知られています。森雅志研究員、北島智也チームリーダー(染色体分配研究チーム)らは、マウスを用いて、受精卵には精子染色体の細胞内局在を制御し、余分な卵子染色体とともに極体へ放出されるのを防止する機構が存在するため、受精卵が確実に2倍体へと移行できることを明らかにしました。このことから不妊治療で使用される顕微受精法では、精子の注入場所を適切に制御する必要があると推測されます。 続きを読む

Mori M, Yao T, Mishina T, et al. J Cell Biol 220, e202012001 (2021)


生体蛍光イメージングのための短波赤外蛍光色素

2021年8月2日

生体蛍光イメージングには近赤外光が利用されていますが、生体深部をより鮮明に可視化するために、最近では近赤外光よりも波長の長い短波赤外領域の光が注目されています。しかし、医療応用が可能で安全に使用できる短波赤外蛍光色素は未開発でした。神隆チームリーダー(ナノバイオプローブ研究チーム)らは、インドシアニングリーン誘導体を利用した安全性の高い生体蛍光イメージング用「短波赤外蛍光色素」の開発に成功しました。今後、短波赤外光を利用した生体蛍光イメージングの医療応用に大きく貢献するものと期待できます。 続きを読む

Swamy MMM, Murai Y, Monde K, et al. Bioconjug Chem 32, 1541-1547 (2021)


動物の左右を決める初期胚のくぼみ

体の左右非対称性はmRNAの分解から始まる

2021年7月30日

内臓の形や配置など、私たちの体内構造に見られる左右非対称性は、胚発生の初期に現れるノードと呼ばれる凹んだ組織で決定されます。ノード中心部の細胞群には、時計回りに回転する繊毛が存在し、ノード内に左向きの水流を作り出します。濱田博司チームリーダー、峰岸かつら研究員(個体パターニング研究チーム)らは、動物の体の左右非対称性を決定する仕組みにおいて、初期胚が生み出す体液の流れに応答して、体の左側だけで特定のメッセンジャーRNAが分解されるメカニズムを解明し、水流という機械的刺激がどのように左右非対称な遺伝子発現へと変換されるかを明らかにしました。 続きを読む

Minegishi K, Rothé B, Komatsu KR, et al. Nat Commun 12, 4071 (2021)


有袋類の遺伝子改変に世界で初めて成功

2021年7月22日

清成寛チームリーダー、金子麻里テクニカルスタッフ(生体モデル開発チーム)らは、有袋類の中では比較的飼育の容易なハイイロジネズミオポッサム(トップ画像)を対象に、ゲノム編集技術を用いることで、有袋類の遺伝子改変に世界で初めて成功しました。本研究成果は、長く謎である有袋類の発生メカニズムをはじめ、ヒトを含む有胎盤類には見られない有袋類特有の性質を遺伝子機能レベルで解明することを可能とし、有袋類の生物学的基礎研究だけでなく、哺乳類の進化や多様性の理解に大きく貢献すると期待できます。 続きを読む

Kiyonari H, Kaneko M, Abe T, et al. Curr Biol (2021)


Dock5と結合タンパク質の構造モデル

細胞の動きを制御するタンパク質の巧妙な仕組み

2021年7月22日

白水美香子チームリーダー、新野睦子上級研究員(タンパク質機能・構造研究チーム)らは、細胞の運動を促進するDOCK5と呼ばれるタンパク質が、その結合パートナーであるELMO1タンパク質の助けを借りてRac1というGタンパク質を活性化する仕組みを、クライオ電子顕微鏡法を用いた高解像度の構造解析により解明しました。本研究成果は、細胞の運動性が深く関与している浸潤がんの治療に向けた創薬研究に貢献すると期待できます。 続きを読む

Kukimoto-Niino M, Katsura K, Kaushik R, et al. Sci Adv 7, (2021)


卵母細胞の老化を1細胞で捉える

2021年7月13日

北島智也チームリーダー、三品達平基礎科学特別研究員、田畑菜峰ジュニアリサーチアソシエイト(染色体分配研究チーム)、濱田博司チームリーダー(個体パターニング研究チーム)、二階堂愛チームリーダー(バイオインフォマティクス研究開発チーム)らは、生殖寿命の初期、中期、後期にあたる雌マウス卵母細胞の全遺伝子発現(トランスクリプトーム)解析を行い、卵母細胞の老化に伴うトランスクリプトーム変化や、食餌制限(カロリー制限)により卵母細胞の老化が抑制される可能性を明らかにしました。本研究成果は、卵母細胞の老化に関する基盤的知見を提供するとともに、今後、卵子の染色体数異常を予測する技術などの開発に貢献すると期待できます。 続きを読む

Mishina T, Tabata N, Hayashi T, et al. Aging Cell (2021)


混雑した細胞内で薬はどう効くのか

2021年7月9日

杉田有治チームリーダー、笠原健人研究員(分子機能シミュレーション研究チーム)、白水美香子チームリーダー(タンパク質機能・構造研究チーム)らは、現実の細胞内に近い分子混雑環境での酵素とその阻害剤の結合過程を、分子動力学計算によりシミュレーションすることに成功しました。本研究から明らかになった、分子混雑環境で阻害剤の効果が低下する機構や、希薄水溶液中とは異なる結合経路の存在は、今後、生体内環境を考慮した新たなイン・シリコ創薬の進展に貢献すると期待できます。 続きを読む

Kasahara K, Re S, Nawrocki G, et al. Nat Commun 12, 4099 (2021)


線虫の寿命を制御する神経と腸の相互作用

寿命を制御する組織間相互作用

2021年7月5日

宇野雅晴研究員、西田栄介チームリーダー(老化分子生物学研究チーム)らは、線虫の寿命制御に関わる組織間相互作用が神経と腸の間で形成されるフィードバックループであることを発見しました。本研究成果は、神経系による老化速度の制御や、カロリー摂取と寿命制御の関係の解明に貢献すると期待できます。 続きを読む

Uno M, Tani Y, Nono M, et al. iScience 24, 102706 (2021)