2021年3月から2021年6月までのプレスリリースと論文ニュースからご紹介します。

脳の全細胞を解析するクラウドシステムの開発

2021年6月22日

真野智之研修生、山田陸裕上級研究員、上田泰己チームリーダー(合成生物学研究チーム)、東京大学の史蕭逸助教らは、全脳全細胞解析を可能にするプラットフォームであるクラウドシステムCUBIC-Cloudを開発しました。本研究成果は、脳全体の遺伝子の働きやネットワーク構造などの膨大な3次元データをクラウド上で保管・解析し、データ駆動型の神経科学を推進するための基盤技術として、神経科学の発展に大きく貢献するものと期待できます。 続きを読む

Mano T, Murata K, Kon K, et al. Cell Rep Methods 1, 100038 (2021)


マウス胎児の中に見つけた呼吸器再生のヒント

2021年6月15日

清川寛文研究員、森本充チームリーダー(呼吸器形成研究チーム)、阿部高也研究員(生体モデル開発チーム)らは、マウス胎児の気管上皮の発生過程における細胞増殖と、生後の気管上皮の再生過程における細胞増殖が、共通の分子機構で制御されていることを発見しました。本研究成果は、気道上皮の組織幹細胞(基底細胞)が組織の損傷に応答して増殖するメカニズムの基本原理の理解に加え、基底細胞の過剰な増殖によって生じる肺扁平上皮がんの病態理解につながるものと期待できます。 続きを読む

Kiyokawa H, Yamaoka A, Matsuoka C, et al. Dev Cell 56, 1917-1929.e9 (2021)


新たな毛包発生モデル「テレスコープモデル」

毛包幹細胞の発生起源を解明

2021年6月10日

森田梨津子研究員、藤原裕展チームリーダー(細胞外環境研究チーム)らは、毛包の幹細胞が従来の定説とは異なる細胞に由来し、既知のメカニズムとは別の仕組みで誘導されることを明らかにし、毛包を構成する細胞の区画化と幹細胞誘導を同時に可能とする新しい形態形成モデル「テレスコープモデル」を提唱しました。本研究成果は、毛包幹細胞の発生起源の定説を覆す発見であり、テレスコープモデルは、さまざまな生物種の体表器官に共通する幹細胞誘導原理となる可能性があります。 続きを読む

Morita R, Sanzen N, Sasaki H, et al. Nature 594, 547-552 (2021)


Wntシグナルが機能しない卵巣

休眠状態の卵胞が目覚めるためのシグナル

2021年5月28日

高瀬比菜子研究員、羽原興子研究パートタイマー(個体パターニング研究チーム)らは、マウスを用いて、卵巣内で休眠状態にある原始卵胞が成長するために必要な分子機構を発見しました。本研究成果は、女性不妊の原因の一つである原始卵胞の不十分な活性化メカニズムへの理解と、将来的な不妊治療への応用が期待できます。 続きを読む

Habara O, Logan CY, Kanai-Azuma M, et al. Development 148, (2021)


低酸素環境下で高い糖代謝を示すがん細胞の特徴を解明

2021年5月17日

杉田幸研修生、大和正典研究員、片岡洋祐チームリーダー(細胞機能評価研究チーム)らは、PETがん診断(18F-FDG-PET)で可視化される糖代謝の高い領域が、がん組織中で低酸素環境下にあり、その領域に存在する細胞が、がんの転移と関連する上皮間葉転換マーカーを発現することを発見しました。本研究成果は、糖代謝の高いがん細胞を標的とする治療薬の開発や、非侵襲的なPET診断によるオーダーメイド医療の実現に貢献すると期待できます。 続きを読む

Sugita S, Yamato M, Hatabu T, Kataoka Y. Sci Rep 11, 9668 (2021)


異種組織を一体化する細胞外環境の特性を解明

2021年5月10日

筒井仰技師、藤原裕展チームリーダー(細胞外環境研究チーム)らは、皮膚の毛包周囲の基底膜の組成を網羅的に解析し、基底膜が異なる組織をつなぐ多様な組織間インターフェースを形成していることを明らかにしました。本研究成果は、生体内や試験管内での異種組織の接続や相互作用の制御技術の発展に貢献すると期待できます。 続きを読む

Tsutsui K, Machida H, Nakagawa A, et al. Nat Commun 12, 2577 (2021)


増えるべきか死ぬべきか、それががん化の分かれ道だ

2021年4月27日

ユ・サガンチームリーダー(動的恒常性研究チーム)、西田弘大学院生リサーチ・アソシエイトらは、ショウジョウバエを用いてがん細胞の生死を決める分子機構を解明し、食餌中のアミノ酸の一つを減らすことでがん化に向かう細胞の増殖が抑制されることを発見しました。細胞のがん化では、ショウジョウバエと哺乳類で共通する分子機構の存在が知られており、本研究成果は、ヒトのがん発生機構の解明や、がんの食餌療法への応用が期待できます。 続きを読む

Nishida H, Okada M, Yang L, et al. eLife 10, (2021)


何度も着脱可能なガラス基板の接着法

2021年4月27日

船野俊一研究員、太田亘俊研究員、田中陽チームリーダー(集積バイオデバイス研究チーム)らは、中性洗剤での表面洗浄とバインダークリップによる加圧だけで繰り返し着脱できるガラス基板の接着法を開発し、区画培養した細胞を回収できるマイクロ流体デバイスの作製に応用しました。本接着法は、細胞に傷害をほとんど与えないこと、また操作が安全で簡便なため、生物材料を扱うさまざまなガラス製マイクロ流体デバイスの作製に応用できることから、今後、生物学・化学分野における実験効率の向上に貢献すると期待できます。 続きを読む

Funano S, Ota N, Tanaka Y. Lab Chip 21, 2244-2254 (2021)


肝臓再生の開始と停止の鍵を握る機械刺激

2021年4月8日

辻孝チームリーダー、武尾真上級研究員(器官誘導研究チーム)らは、肝臓の損傷によって生じる機械的な刺激(血流速度の変化)が肝臓再生の開始と停止に関与することを明らかにしました。本研究成果は、肝臓をはじめとする器官発生や再生などの基礎的研究に貢献するとともに、将来の人工的な三次元立体器官の実現に向け、機械的恒常性を利用した器官再生や育成を制御する技術開発への応用が期待できます。 続きを読む

Ishikawa J, Takeo M, Iwadate A, et al. Commun Biol 4, 409 (2021)


ハエの変異株とモーガン博士

老化による幹細胞のがん化機構の発見

2021年4月6日

ユ・サガンチームリーダー、佐々木彩伽研修生、高野智美テクニカルスタッフ、西村隆史チームリーダーらは、ショウジョウバエを用いて、個体の老化に伴って腸の幹細胞(腸幹細胞)が過剰に増殖し、がん化する分子機構を発見しました。幹細胞による組織の維持とがん化はショウジョウバエと哺乳類のどちらでも観察されることから、本研究成果は、将来ヒトの老化に伴うがん発生機構の解明にも貢献すると期待できます。 続きを読む

Sasaki A, Nishimura T, Takano T, et al. Nat Metab 3, 546-557 (2021)


トランスファーRNA

遺伝暗号を人工的につくる

2021年3月18日

清水義宏チームリーダー(無細胞タンパク質合成研究チーム)らは、試験管内で人工的に合成されたtRNAを用いて、翻訳の分子機構を再構築することに成功しました。さらに、tRNAの構造を改変することで、自然界には存在しない遺伝暗号表を作り出すことが可能であることを示しました。続きを読む

Hibi K, Amikura K, Sugiura N, et al. Commun Biol 3, 350 (2020)


 

細胞外マトリックスの構築の仕組み

2021年3月12日

チュ・ウェイチェン研究員と林茂生チームリーダー(形態形成シグナル研究チーム)は、ショウジョウバエの飛翔器官の筋肉と骨格を連結する腱組織の構築において、細胞外基質が筋肉からの引っ張りによる機械的作用と、特定のタンパク質との生化学的な作用によって強靱な繊維として成熟することを明らかにしました(トップ画像)。この知見は、ヒトの発達期における筋損傷などで起こる運動器官の発達不全の発症機構の理解に向けた基礎研究に貢献すると期待できます。 続きを読む

Chu WC, Hayashi S. Curr Biol 31, 1366-1378.e7 (2021)


分化せずに自己複製するのは難しいが、恒常性維持のためには重要だ

2021年3月5日

骨髄の中に含まれるごくわずかな造血幹細胞が、身体中で働く数千億以上の白血球や赤血球、血小板などを毎日作り出します。造血幹細胞は細胞分裂時に、分化するための細胞と造血幹細胞で居続ける細胞に分裂すると予想されます。酒巻太郎大学院生リサーチ・アソシエイト(臨床橋渡しプログラム造血幹細胞研究開発、宮西正憲研究リーダー)らは、造血幹細胞の自己複製能が細胞分裂というストレスの程度により柔軟に変化すること、さらにはその過程にHoxb5遺伝子が強く関与していることを明らかにしました。続きを読む

Sakamaki T, Kao KS, Nishi K, et al. Biochem Biophys Res Commun 539, 34-41 (2021)


卵子のための染色体分配装置の調整

2021年3月4日

北島智也チームリーダー、オーレリアン・クートワ研究員(染色体分配研究チーム)らは、染色体分配装置である紡錘体について解析し、卵子がつくられる際の紡錘体の機能および形が動原体と微小管の接続を介して調整されていることを発見しました。 本研究成果は、卵子の染色体数異常をもたらす原因の一つと考えられている紡錘体の異常を理解することに貢献すると期待できます。続きを読む

Courtois A, Yoshida S, Takenouchi O, et al. EMBO Rep 22, e51400 (2021)